第35話

「僕が参加している理由は,

コノハ先輩のためではありませんから.」

八雲が静かに言う.


状況が分からねぇ俺でも,

クルミのためにだろうって思うから,

大丈夫…


正直これ,どうしたらいい.


コノハ先輩も一緒にしようって

声掛けたら良かったんじゃねぇの…


むしろ,クルミが声掛けたら,

少なくとも,

こんな状況にはなってなかったんじゃぁ.


サクラは?


読めない,あの表情.


クルミも,オロオロしているだけだし.


何か言うの,俺?

だいぶ部外者感があるんだけど.


八雲が立ち上がって,出ていく.


「ちょっ…」


追いかける.


リョウの

「すれ違うだけの人は分かり合えない.」

って言葉が頭ん中で鳴る.


「待って!」


なぜか,八雲が滅茶苦茶走り始める.


あいつ…

多分,運動やってる.

適当に過ごした俺の体力じゃ追いつけないかも.


あぁ,マスクで苦しい.

悪いけど,顎まで下げて,階段駆け降りる.


八雲は上履きでグラウンドへ,

迷ってる暇無くて,そのまま俺もグラウンドへ出た.

あ~ぁ,これ上がる時だいぶ面倒だぞ

とか,

これ先生が見たら,何て言われんだよ

とか,

ぼやっと考えながら,必死で追いかけた.

まだ,昼休み.

出てる人が多すぎて,

時々ぶつかりながら,

「ごめん.」

届いたか届かないか分からないけど,

謝りながら追いかける.


あいつ,

まだギア上げられそうだなぁと思いながら.

見失ったら,もう見つけられないだろうな.


「八雲っ!」

背中の白いシャツを掴む.


こっちは汗だくで,

息もあがって,

ぐちゃぐちゃなのに…


マスクもきっちり着用して

「何ですか,先輩.」

涼しげな表情で八雲は言った.


「…なんでっ…

逃げるん…だよっ…」


「追いかけるから.」

さらっと言った.


お前が走らなかったら,

こんなに走って追いかけなくても良かったんだよっ!


「上が見えないような天井や,

底が無いような沼を見た事ありますか?」

八雲が言った.


「はっ?」


「そんな才能を見た時,


頑張るか,

見えないふりするか,

憧れるか,

逃げるか,

邪魔するか.


どれが正解でしょうね.」


「…んなの,

どれも正解でいいでしょ.

人によりけり.


最後の邪魔したら

人道的にいかんとは思うけど.」


「…そうですねぇ.」

心ここにあらずって感じで八雲が返事をした.


「それよりも八雲.

あれは,良くないよ.


吹奏楽って呼吸から合わせるんだろ.

気持ちも合わないよ.

あんなんじゃ.


正直な所を言ったんだろうけど…

正直が常に正解とは限んないよ.」


グラウンドの人がまばらになる.

やばい,昼休みが終わる.


「とりあえず,休み終わるから戻ろう.」

八雲に声掛けた.






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