第30話

昼休み,ぶらっと渡り廊下通って音楽室まで歩く.

サクラと走って音楽室まで行った事思い出した.

手…握ったよな.

右手を見ながら,グーパーグーパーしてみる.

水平にして見たり太陽に透かせて角度変えて見たりしてみたけど,

何の変哲もない俺の手だった.

廊下は走ったらいかんよね.


音楽室ドア前,先客がいた.


「何で入んねぇの?」

サクラに声掛ける.


『昼休みの音楽室は貸し切りよ.』

サクラが小声で言う.


来いって言ったり,入れねぇって言ったり…

何なんだよ.


サクラが聴きながら楽譜を見てる.

時々,指が楽譜をトントン叩く.

俺,あの手に掴まれたんだなと思ったら…

何だか顔が熱くなった.




『あれ,何なの?

フルートは分かる.』


『クルミちゃんが吹いている方が,クラリネット.

あの曲あるじゃない?

クラリネットは壊れた訳じゃないのよ.

吹くにはコツがいるの.

リード楽器は難しいわ.


吹奏楽は,クラリネットが主旋律を奏でる.

フルートと共に.』


ふ~ん.


…フルートとクラリネット.

聴いていて心地いい.





『なぁ,あいつ.

本当は聴こえているんじゃないのか.

合ってるように聴こえるけど.』


『あいつじゃないわ.

クルミちゃんよ.


吹奏楽って,呼吸から合わせるのよ.

クルミちゃんに聞いたわけじゃないから

正しいかは分からないけど…


コノハ先輩が息を吸った所や指の動きを見ながら,

合わせてるんだと思う.

コノハ先輩も,クルミちゃんと合わせようとしてるから,

このメロディーになってるのよ.


見えない努力が見えるから,

私たちは私たちが出来る事をしたい.』

サクラが言った.


見えない努力,高度な技術かぁ…

これ…

俺,何かできる事があるのか?


背後から,

『サクラ先輩,こんにちは.』

男の声がした.


振り向くと,

物凄い眼差しの男子がいた.

エンジの刺繍だから,こいつも1年か.


何か視線にトゲがあるよな…

どっちかっていうと睨みつけてるような…

敵意があるような感じ…

何だよ…

顔の割に肩幅ごつい.

何か格闘技してるかも.


『こんにちは.

こちら,2年の麻木くん.

パーカッションに入って貰おうと思ってる.


あちら,1年の八雲くん.

アルトサックス担当です.』

サクラが紹介し合う.


1年が,俺に向かって,

『邪魔しないで下さいよ.』

と言った…



下手な奴は引っ込んどけって事か?

こっちも頼まれて来てんのに.

何だかムカついてきた.


何か言い返したくて,

1年見てると,

ドアの近くに行き目を閉じて,音色を聴き始めた.

少し体が揺れる.


眼が開いて,

音楽室の中を食い入るように見てる.

ふと,1年の目が輝いて,目が細くなって,

音楽室のドア窓から見えるくらいまで手を挙げた.


音楽室見ると,

クルミが笑顔で手を振ってた.


そういう事…

若いな.

ちょっと八雲見てたら

一緒に引き込まれて瞳孔が開くかと思った.


八雲が,礼をしながら,俺には睨んで通り過ぎた気がした…

大丈夫だよ…

クルミにとって,俺は変態の認識だから…

言えねぇけど…

あのガタイで向かってこられたら…

俺軽く殺られる…















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る