第28話

「サクラ.

一応聞くけど…


あの子は,指揮者?

もしかして楽器?

耳聞こえてないんでしょ?

合わせたり出来んの?」


「クルミちゃんは,本人も出来ないって言い続けてた.

だけど,部長が説得して,先生も部員も説得して,

演奏する事になった.


部長はクルミちゃんのお姉さん.

クルミちゃんは小さい頃から,

クラリネットを習い事としていたみたい.

上手だよ.」

サクラが言う.


「そりゃ1人でする分にはいいんだろうけど…

吹奏楽って,そうじゃないよね.」


「昼休み,音楽室に来て見て.

分かるから.」

サクラが言う.


「それ,今,聞かなかった事にするかもよ.

俺ら昼休み忙しい.」


「今日は,サッカー出来なくて残念だったわね.」


「おまっ,何で知ってるんだよ.」


「お前って言わないで.

あんなに騒いでたら聞こえてくるわよ.」


「ちなみに,パーカッションって何?」


「打楽器よ.

タイミングが来たら叩く.

それだけ.」


「それだけって…

それが難しいんでねぇの?」


「分かってるならいいわ.」

サクラが言った.


「サクラと,先輩と1年だけ?部員.」


「あと,アルトサックスの1年男子,3年女子バスクラリネット,

2年女子ホルン,2年男子トランペット,コノハ部長はフルート.

少数精鋭よ.

って言ったら聞こえが良いけど…

厚みが足りなくて,コンクールは見送った.」

サクラが言う.


「コンクール出ないんだったら,もういいんじゃないの?

皆コンクールや試合に向けて頑張るんでしょ?

部活って.」


「このまま,先輩方を送り出すのは寂しかったのよ.

最後位,しっかり合わせて,

部活して良かったなって思って欲しいじゃない.


運動部は,そろそろ引退していってる.

あと1か月くらいが限度かなと思ってる.

先輩方も受験勉強に切り替えないと…」


「なぁ,サクラ.


それ自己満足やないの?

こんな事して意味があるのかよ.」


静かに聞いていた,コノハ部長が口を開く.

「もし,コンクールで勝ち上がっていたら,

来月の本選まで進めるの.

その時期まで部活が出来るのよ.

そう思ったら,そこで部活の切りをつけようかなって.


おこがましいと思うわ.

だけど…最後くらい厚みのある合奏がしたいじゃない.」

悲しげな目をした.


1年が

「それ程,謝るのであれば許してあげます.」

と俺に向かって言った…


…俺は謝った記憶がない.

手話通訳ちゃんとやれよなと思った.




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