第9話

電話鳴ったんだ.

あの時.


だけど,へそ曲げて俺は取らなかった.

出なかった,わざと.


でも,その後だった.

ルカが横断中に,はねられた.


ブレーキとアクセル間違った車だったんだって.

凄いスピードで突っ込んできたらしい.

目撃情報と画像の荒い防犯ビデオから.

今みたいに,ドラレコがついた車が,あちこち走ってる訳じゃないから.


ハヤトは,電話出てもどうしようもなかったよって言ってくれたけれど.

電話出てたら何か違ってたんじゃないかって.

そうして,ずっとぐるぐる同じところ回って,ゴールが無い.


あの日だって,ルカが大事な人のために出かけるって言うから.

一緒に行くよって言うけれど,デートだからって遮られた.

いや,だから,ちょっと…いや,かなり俺怒ってたんだよな.

デートでも,付いて行けばよかった.

気なんて遣わなくて良かったんだ.

嫌がられても付いて行ったら良かったし,

あの時の電話も余裕で出たら良かったんだ.


行ってきますって言った時の,ふわふわの髪は,泥と血とベタベタで.

ニコニコ笑って出ていったのに,無表情で冷たくて.

もう駆けつけても,なにもかもが変わっていた.

もしかして,ルカじゃないんじゃないかって.

お気に入りのワンピース着た,ルカのそっくりさんだったらいいなとか.

嘘だよ~何泣いちゃってんの?って起き上がってくるといいななんて.

ずっと考えながら,朝まで過ごして…


ルカを見送ってからも,ルカが帰ってくるんじゃないかって.

ルカがいないって分かっていても分からなかった.

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