2:切り撮り
「はーい撮るよー!」
私は昔から写真を撮るとき、いつも手で切り取っていた。
特に意味はないし、それをしたからいい写真が撮れるかと言われればそうではないが。
友達と山に行って、高い場所から見える景色を背景に皆を立たせ、その向かいにカメラを立てる。私は後から急いで入ろうとしていた。
そして私はいつも通りのルーティーンを実行する。
皆の上半身を指で作った四角形に収めた。
そしてその手を降ろした瞬間。
皆の上半身は綺麗サッパリなくなっていた。
筋肉が働くなった下半身は一気に倒れる。
「……え?」
その場は一瞬にして血塗れとなった。
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ここ最近この辺りでよく聞く怪事件。
『人体切り取り殺人事件』
被害者は皆、まるで切り取られたかのように綺麗に一部が欠損しているというもの。
俺は刑事としてこの事件を追い続けている。
しかしこの事件、証拠はまるで残らず、指紋も一切見つからない。残った下半身や上半身には触れられた形跡はなく、凶器も残っていない。
唯一の手がかりといえば、被害者の共通点。
全員無職である。
…無職に恨みでもあるのだろうか。
とりあえず無職狙いということで、俺はとある無職を訪ねた。近所の人に「どうやって生きてきたの?」との評判があるそう。住んでいるのはボロボロのアパート。
「…すいませーん」
インターホンも付いていない…
「開いてますよ」
あ、ほんとだ。
「なんで閉めないんですか」
「閉まらないんです」
「…それって要するに僕死にますよね」
「死なせないように努めてまいります」
「…無理ですよね」
「大丈夫です」
「……まぁいいけど…」
いいんだ。
「ちなみに無職ですよねあなた。どうやって暮らしているんですか?」
「…生涯パチンコ」
「どうやって生きてきたんですか…」
「では、あの公園でいかにもニートっぽい感じ出してください」
「ニートっぽい感じとは」
「ダンボールの上で寝たり酒飲んだり」
「それどっちかっていうとホームレスじゃないすか?」
「幼女に声かけてもいいですよ」
「アンタ警察としてどうなのそれ」
「あなたがニートであることが伝わればいいんです」
「まぁ…そもそもその殺人鬼がこの現場を見てるかどうか…ですけどね」
「粘りましょう」
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ニートは嫌いだ。
なんか不潔だし。そもそも生きてる価値がない。
喜ぶ人間などいるのか。
だから見つけ次第全員殺すようにしている。
きっとこの力は、このために授けてくれた。
私は囲いを作るとその部分を切り取ることが出来るようで、自分でもその原理は分からない。突然目覚めたものだ。そして私はこの力を悪事に使うことにしたのだ。
切り取れればなんでもいいらしく、スマホのカメラでも殺せる。怪しまれないし、遠くから接触無しで殺せるから簡単にこなせてしまう。
今日もまた、私の目の前に忌まわしき無職が現れる。
殺してやろう。私はカメラを起動した。
「ちょっといいかな」
「!?」
警察。
「君…なんでカメラなんか撮ってんの」
そう言いながら警察もカメラ持ってるけど。
「…」
それに気づいてしまった私はカメラから目を離せない。
「…?あぁ、僕が持っているのは証拠を残すためのものだから気にしないで。君は何を撮るんだ?」
あぁ。気づいたのか。あいつは囮か。
じゃぁ死んでもらおうか。
私は警官にカメラを向け、写真を撮る。映ったのは警官の胴体のみ。それだけ切り取れれば十分。
警官の胴体は綺麗に無くなった。四肢と頭が地面に落ちていく。
「…困ったな」
警官が来たということは、私が起こした事件も向こうに追われている。厄介である。
「ねぇ、お姉さん」
気づくと目の前に小さな男の子がいた。真っ黒のフードを被っていて顔はよく見えない。
「僕はキュウキ。さっきお姉さんが人殺したの、見たよ」
何だ、この子は。
「ね、お姉さん…僕達の仲間にならない?」
「君は…何なの?」
「僕はね…君達と同じものだよ」
キュウキと名乗った男の子の首にはネックレスがあった。
虎の、ネックレスだった。
狂街区 三兎 @Glitch-cat7
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