第82話 傍証になりそうな写真を貫太郎に見せる
儲け一辺倒のペットショップで法外な値札を付けられている小型犬が幅を利かせている当節は、ミックスは犬ではないかのような扱いを受ける経験が少なくなかった。
まさかとは思うが、貫太郎の不見識に幻滅したくないので、急いで話題を変える。
「あ、いけない、ご多忙中だったよね。さっそく本題に入らせてもらうね。電話でも話したとおり、うちの編集部で例の事件の写真を整理していたら、ちょっと気になる場面が出て来てね。これは警察に届け出たほうがいいよね、ということになったの」
ほかの客の耳を憚って単語を省いたので、いきおい秘密めいたニュアンスになる。
文花はバッグからプリントアウトした写真を取り出して、貫太郎の前に並べた。
クリーム色のパーテーションに隠れ、「壁ドン」で佐々木豪に言い寄る倉科徹。
イブニング・ドレスの林美智佳を目で追う上原和也と百目鬼肇。
その林美智佳のまなざしは、佐々木豪に熱く縋り付いている。
遠くから絡み合う竹山俊司と蔵前俊司の視線。
肩が触れ合う至近距離にいながら、目も合わせない鷹野正平と立石博朗。
新品の高級ワインを、こっそりカバンに詰めこんでいる佐藤三郎……。
「こ、これは……。意図せず撮影しただけに、かえって人物の相関図を正確に捉えているようだね。どうもありがとう。署に持ち帰って、捜査の参考にさせてもらうよ。おかあさんや撮影した香山部長さんにもよろしく伝えてね」貫太郎は喜んでくれた。
「了解! これからもお手伝いできる状況が生じたら、遠慮なく言ってね……って、いけない、わたしも参考人だったんだっけ。まだ嫌疑が晴れたわけじゃないよね?」
緊張が解けないまま、敬語と溜め口が混ざった、妙な言いまわしになっている。
本気で貫太郎の役に立ちたいと思っている自分に、文花はあらためて気づいた。
――あらまぁ。わたしと来たら、いつの間に警察贔屓になったのかしら。
諒子社長を悩ませた例の一件で、理不尽な権力行使の機関と思っていたのに……。
孤独だった高校時代、遠くから見守ってくれる貫太郎の静かな眼差しに救われた。
その恩返しのつもりだよ……言いきってしまうのは、無理があるような気がした。
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