第73話 デジタルカメラが捉えた関係者の素の顔


 

 同日の午後7時――。

 文花編集長は、DTPアーティスト・草薙隼太郎の素っ頓狂な雄叫びを聞いた。


「あれ、なんっすか、これは?!」


 居合わせた香山部長、植村部長も一緒に、最新型デスクトップのMacを覗きこむ。

「打ち上げの写真を明るくしたら、とんでもないモノが写りこんでいたんすよ」


 興奮を隠さない草薙隼太郎は、マウスのポインタで、ある箇所を指し示していた。

 抗いがたい力で吸い寄せられた文花の目は、ひとりの男の不審な挙動を捉える。


 ――あっ、全信の倉科部長! 

   なにをしているんですか?


 料理のパーテーションのかげで、倉科徹が佐々木豪に「壁ドン」をしている。

 天下を代表する大手広告代理店の部長が、俳優に? そんなはずは……ない。 

 だが、粘っこい視線、ムードともに、言い寄っているとしか見えようがない。


 ほかにも、パーティ出席者の素の顔が、無惨なほどはっきりと写りこんでいた。


 俳優そこのけの派手な身なりをした通信社の上原和也が、林美智佳を狙っている。

 胡麻塩頭に小太りの百目鬼肇も、料理を小皿に取りながら、美智佳を追っていた。

 だが、両者から追われる林美智佳の目は、ひたすら佐々木豪ひとりを追っている。


 ロングに引いたアングルでは、部屋の南隅と北隅に離れた、竹山俊司と蔵前俊司の視線が微妙に絡んでいる。地元新聞記者同士の鷹野正平と立石博朗は目も合わせない様子だし、プロデューサーの佐藤三郎は封をきらないワインをカバンに入れていた。


「残酷だよね、デジタルの刻印は……。わたしの醜態が写っていなくてよかったわ。ひょっとして、あまりにも見苦しくて、香山部長、撮るに忍びなかったりした?」


 冗談めかせながら、文花は証拠品として警察に届けるべきかの判断を考えていた。

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