第72話 貫太郎と曽山刑事による相関図分析
午後11時半。
捜査会議終了後も居残った貫太郎は、曽山刑事とふたりで事件の整理を行った。
捜査手帳には、被害者の林美智佳と16人の関係者の氏名と簡単なプロフィールを図示してある。ちなみにテレビドラマで定番の、ホワイトボードに相関図を明記するやり方は、どこにブンヤなど部外者の目があるかわからないから、実際は行わない。
「林美智佳とトラブルになる可能性のある人物はつぎの3つに分類される。愛欲関連は佐藤三郎、竹山俊司、百目鬼肇、善財恭一郎、上原和也。金銭関連では清田哲司、佐藤三郎、竹山俊司、倉科徹、百目鬼肇。その他として狐憑きの大野康平、林美智佳が一方的に想いを寄せていた佐々木豪、女優に入れこむ子を案じる善財亜希子。そのいずれにも該当しないのは宝月諒子、文花、香山、蔵前俊司、鷹野正平、立石博朗」
貫太郎の分析を曽山刑事が引き取る。
「色分けした矢印によっても一目瞭然ですが、関係者から最も思いを寄せられていた筆頭は林美智佳、敵対関係が交錯しているのは佐藤三郎です。なんとも皮肉ですが、全信、シネカノン、プロデューサー、俳優、AD、著者、版元、ボランティア等々、映画にかかわった団体や人物は、総じて険悪な間柄と言えますね」
極めて冷静な分析ではあるが、貫太郎は動きたがる口を止められなかった。
「大先輩の有賀係長に倣い、刑事としての勘に従えば、だがな、翡翠書房の宝月文花編集長に想いを寄せている男が、少なくとも4人はいる。同社営業部長の香山部長、通信社の上原和也、日日新聞の鷹野正平、高砂ローカルの立石博朗だ。今回の事件には直接の関係がないように見えるが、頭の隅に留めておく必要があるだろうな」
一瞬、呆気にとられた曽山刑事は、なぜか赤くなって慌てて返答をかえす。
「なるほど。それは気付きませんでした。眼前の視線に堕すれば、幹の空洞や腐敗を見落とす。矢崎刑事課長の教訓をみごとに実践されましたね。いや、敬服しました」
黙って胸に留めておけなかった軽挙を、貫太郎は少しだけ悔いた。
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