第71話 担当班それぞれからの調査報告
語り手は上條常隆刑事と石黒道哉刑事だった。
「われわれはマスコミをまわりました。まず日日新聞文化部の鷹野正平ですが、本人はまったくの小心者で、われわれに訪ねられるのも迷惑という感じで、こそこそ逃げまわっていました。高砂ローカル文化部の立石博朗も同様で、記者の名刺がなければ風采の上がらない、ただの男の感じが濃厚でした。それぞれの上司や部下にも聞いてみましたが、これといったネタは出ませんでした」
面目なさそうに告げた上條刑事は石黒刑事に替わった。
「同じブンヤでも、通信社文化部の上原和也、こっちは相当に風変わりな男でした。支局には女性の事務員しか置いていませんでしたが、なにやら曰くありげな口ぶりでしたし、叩けば結構な埃が出そうです。前任地でもやらかしているかも知れません」
成果を強調したところで第4班に交代。
入れ替わって、刑事課の紅2点、遠藤皐月刑事と鶴前圭子刑事が報告する。
「わたしたちは翡翠書房の宝月諒子社長と、娘の文花編集長の周辺を担当しました。同社のスタッフや自宅付近、取引先などに聞いてみましたが、ふたりの評判はみごとに二分します」女性らしい容姿の遠藤刑事が淡々と告げると、中学・高校と水泳部のエースで鳴らしただけあって肩幅の広い鶴前刑事が、辛辣な物言いを追加する。
「いまどき出版なんて不況の最たる産業を押し付けられて気の毒にと同情する人と、『なあに、母娘そろって目立ちたがり屋だから、あれで本人たちはご満悦なのさ』と言う人と……。いまさらですが、聴き取り捜査は刑事として大変に勉強になります」
――なにを言っておるか! 美人へのやっかみかなんか知らんが、さりげなく後者に重きを置きおって。エキスの抽出の仕方で、担当刑事の人間性が問われるんだよ!
文花を批判された貫太郎は、男のような巨漢刑事を目の端で睨み付けてやる。
「まあな、そんなもんだろう。一切の責任を追わない他人の目なんてえものは」父親のように諭した矢崎刑事課長は百瀬署長と吉澤副署長に向き直る。「如何でしょう、今日のところはこの辺で……」百瀬署長は「そうだな。名前が挙がったうちでとくに動機が濃厚な者を中心に、引きつづき聞きこみを掛けてくれ」おごそかに命じた。
「まったくたまたまではあるが、当署のオール幹部が同席した会場で発生した本件は県警捜査一課の応援を頼まず、できれば当所轄で解決したいと百瀬署長はお考えだ。いいな、みんな、肚を据えて頼むぞ」
――はいっ!
吉澤副署長の総括に、全刑事が気合いの籠もった返答をかえした。
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