第69話 怪文書と狐憑きに驚く刑事たち
いきなりだったが、貫太郎は車中で練って来た文案を、すらすらと口にする。
「第5班は、プロデューサーの佐藤三郎、著者の百目鬼肇、ADの蔵前俊司と大野康平の4人の周辺を洗いました。下町の旋盤工から映画界に入った変わり種の佐藤三郎は、相当に
ここまで一気に述べると、先輩に倣い、相棒の曽山刑事の出番を作ってやる。
「百目鬼肇は聞きしに勝る妖怪でした。徹底的なエゴイストで、金銭への執着には凄まじいものがあります。一種の被害妄想でしょうか、周囲は敵ばかりと思いこんで、あれほど世話になった翡翠書房と宝月諒子社長を貶める内容の怪文書までばら撒いていました」押収して来た手紙をスライドで公開すると、室内にざわめきが起こった。
最後は再び貫太郎が引き取る。
「一方、ADの蔵前俊司と大野康平ですが、いまのところ、蔵前には不審な点は見当たりません。ただ、大野については少し奇妙な話を聞きました。半世紀も前に樵村で発生した狐憑きとやらにまつわる因縁で、林美智佳と揉めていたらしいとか……」
――キツネツキ?
なんじゃ、そりゃ?
再びどよめきが湧き起こった。
「若い者は知らんだろうが、高度経済成長期あたりまで、奥の山間地には迷信が生きておった。げんにわたしも、巡査として赴任した土地で、リンチ紛いの事件を経験しておる。歴史が過去の延長である以上、怨念は簡単に断ちきれないのかも知れない」
述懐した矢崎刑事課長は「第2班の草間刑事と中島刑事、報告を頼む」と命じた。
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