第67話 出版社か新聞社に入りたかった貫太郎の回想
急いで新宿駅に取って返した貫太郎と曽山刑事は、18時発の特急に飛び乗った。
自由席に落ち着くと、ホームで買い求めた駅弁を広げる。
ひと駅ごとに特急はどんどん西へ向かい、東京の街が見る見る遠ざかって行く。
腹が重くなった曽山は、額に汗を滲ませ、ぽかっと口を開けて眠りに入った。
今夜の捜査会議を思い描きながら貫太郎も目をつぶってみたが眠れない。さびしいような、ほっとするような、矛盾した旅情を抱えながら、孤独な瞑想に入ってゆく。
――聞きこみの仕事は、マスコミの取材に通底する部分があるかも知れない。
思い返せば、母校の高砂城北高校の図書館は相当に充実していた。
ハードな陸上部の練習のかたわら、物音ひとつしない館内で本を広げるひとときに言い知れぬ至福を感じていた。読書の延長で、文章を書くのも自然に好きになった。
父が元気でいてくれたら文系の大学に進み、出版社か新聞社を目指していたろう。
残念ながら、夢は夢のままで終わったが、取材の鉱脈を掘り当てる興奮と喜悦を、刑事の仕事にも重ねてみたかった。
*
20時42分、特急は予定どおり終点の高砂駅に滑りこんだ。
足早に階段を駆け下りた貫太郎と曽山刑事は、正面口の右手の駅前交番に走る。
パトカーなら、ものの数分で高砂警察署に着くだろう。
21時スタートの捜査会議にギリギリセーフで滑りこめる。
今日一日の成果を、みんなに早く披露したかった。
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