第57話 創作料理店「十六夜月」でのランチ



 

 根を詰めて編集作業を進めているうちに、柱時計は早くも正午に近付いた。


「今日のランチはわたしにご馳走させてね。久しぶりに創作料理はどうかしら」

 おっとりと諒子社長が告げると、疲労していた全員がわれ先に立ち上がった。


 事務所から車で数分のところに、行きつけの割烹「十六夜月」がある。

 地元食材を使ったヘルシーな和食で、三の膳にデザート、珈琲まで付いて2,000円のリーズナブルさが受け、サラリーマンや主婦のグループで、いつも賑わっている。

 運よく予約が取れたので、6人は2台の車に分乗して京風の割烹店へ向かった。


 アスパラガスと温玉サラダ、地元名産の山葵わさびのお浸し、山菜の天麩羅、ニジマスのお造り、地鶏の山賊焼き、鮎の塩焼き、具だくさん茶碗蒸し……多彩な食材をふんだんに使った料理を賞味しながらの話題は、自ずから試写会の感想に導かれてゆく。


「いかがでしたか? 当社から生まれた映画『See you again! ジロー』は」

 香ばしい蕎麦茶を啜りながらの植村部長の質問に、まず文花が口火をきる。


「正直、わたしには上映時間の100分間が、とても冗長に感じられましたよ。そう言っては何ですけど。脚本が甘くて、3分の2、場合によっては半分に縮めてもいいくらいで」辛辣な批評に、同じく映画好きな諒子社長と香山部長も異口同音に同意。


「そうね、残念ながら一級作品とは言い難かったわね。大人の鑑賞に堪えるかしら」

「わたしには高校生の軽い恋愛話が退屈で、途中でうっかり眠りそうになりました」


 雰囲気に釣られ、試写を観終えたとき浮かんだ素朴な疑問を文花は口にしてみる。

「なによりもびっくりさせられたのは、撮影期間が予想外に短期間だったことよね。当初、佐藤プロデューサーは『美しい高砂の春夏秋冬を全国の人たちに紹介したい』と熱く語っていたのに、いざ蓋を開けてみたら、寒々しい冬景色ばかりでしたから」


「おそらく予算の関係でしょうね。1年もの長期間にわたるロケは、俳優やスタッフの拘束料やら、滞在費やらなにやらかにやら、相当な費用が必要でしょうから」


 向かい側に座った香山部長のクールな分析に、文花は思わず溜め口で言い返す。

「でも、もう二度と撮れないんだよ、映画『See you again! ジロー』の高砂は!」

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