第55話 みんなで喧々諤々の編集談義




 ひととおりチェックした文花は、さっそくDTPの草薙隼太郎に指示を出す。


「全画像をPhotoshopに取りこみ、jpgをeps化するまではわたしが担当するわ。草薙くんはInDesignとIllustratorを駆使し、思いきりダイナミックにレイアウトしてね」


 予算の関係で、文花のMacには一時代前のソフトQuarkXPressしか入っていない。


「おいっす! ところで、編集長、ひとつ提案っすけど、Illustratorで描いた動物の似顔絵を、それぞれの人物の写真の横に添えるっつうのは、どうっすかねぇ?」


 ――へぇ。なんだかんだ言っても、この子なりに考えてくれているんだ。


 草薙隼太郎の突拍子もない申し出に、文花編集長は即座に呼応する。「なるほど、登場人物を動物に模す試みね。さしずめ善財亜希子はなにが適当かしら?」「滑稽なほどの厚化粧で、巨大な尻ダコを持つ、牝マントヒヒあたりはどうっすか? 被毛はもちろん、どピンクっす」全員が爆笑したので、草薙は照れくさそうに頬を染めた。


 ライバル意識を掻き立てられたのか、香山部長も負けじと意見を述べ立てる。


「写真の絵解きは、くどくどしい説明は避け、簡潔な1行キャプションでゆくべきでしょうね。その代わり、インパクトのある語彙ごいを厳選して。たとえば、佐藤プロデューサーに食ってかかる善財亜希子には『吠えまくる善財亜希子女史』とか……」


 ――女史? はて、いまどきそれはどうだろう?


 文花は率直に思ったが、みんなの前で欠点を指摘する愚は持ち合わせていない。

「レトロっぽい感じの『女史』という言いまわしが、かえって目を惹くかもね」


 とそのとき、文花の背後から、しげしげとMacを覗きこんでいた草薙隼太郎が奇声を発した。「どひゃあー! いま、おれ、ヤバい事実に気付いちゃったっす。本当にいまさらっすけど、ヤバくないっすか? 俳優の人たちの肖像権。下手すれば、裁判に持ちこまれる可能性も……」

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