第45話 捜査会議はボイスレコーダーの確認から
捜査会議は午後10時に始まった。
雛壇には、中央の百瀬署長を挟んで吉澤副署長と矢崎刑事課長が座った。
首脳陣に対峙するかたちで、係長の有賀太一警部補以下10人の刑事が着席する。
司会の吉澤副署長がまず挨拶を述べる。
「ただいまから、戒名『映画女優殺人事件』の捜査会議を始める。冒頭で、百瀬署長からご挨拶をいただく」
柔和な表情をかすかに引き締めた百瀬署長は、トップらしい訓示を行った。
「みんな、遅くまでご苦労だった。
――苦労人らしいご挨拶だ。大勢の部下の前で訓示される心持ちはどんなだろう。
隠れ署長ファンの貫太郎は、わがことのように誇らしい。
「では、最初に各班の事情聴取を確認する。全員でつまびらかな情報を共有しよう。矢崎くん、頼む」吉澤副署長の指示に従い、矢崎刑事課長は進行役を替わった。
「鑑識の和田巡査部長。記録して来たボイスレコーダーを第1班から再生してください」「はい、承知いたしました」手慣れた手付きで5台のボイスレコーダーを並べた和田巡査部長が最初の再生ボタンを押すと、有賀太一警部補の野太い声が流れ出た。
「これから仮称『女優殺人事件』の事情聴取を行います。わたしは高砂警察署刑事課捜査一係長の有賀太一警部補。こちらは同じく捜査一係の折井安二郎刑事です」
少し間を置いて、ひとり目の参考人の、やや緊張気味のテノールが聴こえて来る。
「清田哲司。52歳。東京都港区六本木3―6―5-707。映画『See you again! ジロー』の配給会社・シネマビレッジの代表を務めています」
「国籍は、どこですか?」すかさず有賀太一警部補が確認する。
「日本です」卓球のようなやり取りに、貫太郎は緊張した耳をそばだてた。
「で、そのあなたが、当地を舞台にした映画に着目した理由はなんですか?」
貫太郎の懸念をよそに、有賀太一警部補は淡々と確認作業を進めて行く。
「映画の製作と配給で食っている身としては、ネタが転がっていさえすればどの地方へだって出かけて行きます。縁があるのないの、好きだのきらいだの言っていられません。もっとも、個人的な事情を言えば、まんざらご当地と無縁ではないですがね」
「高砂と
かすかな皮肉が混じる清田哲司の供述を、有賀太一警部補は正面から受け留めた。
「いや、高砂ではありません。同じ信州でも縄文市が、わたしの生まれ故郷です」
「ほう……。では、前川太一監督と同郷ですな?」
――えっ! オッサン、マジっすか?
びっくりした貫太郎は目玉をひん剥いた。
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