第21話 FX投資・善財恭一郎の正体



 

 寒々とした教室に入ると、「パトカーに積んで置いた、おれのトレーナーです。洗濯はしてあります。これに着替えなさい」貫太郎はまず、善財恭一郎のズボンを着替えさせようとしたが、恭一郎は、着古した運動着を胡散臭げに見るばかりで、手を出そうともしない。貫太郎が目顔で促すと、はあとため息をつきながら、若者らしからぬ鈍重な仕草でうしろ向きになり、渋々とズボンを穿き替え始めた。


「上も着替えたらどうですか?」

「いいです!」断乎拒否される。


 下は紺地に白いライン入りの高校生のようなジャージ、上は高級感あふれる小洒落たソフトスーツという珍妙な格好の恭一郎は、指定された椅子にのろのろ座る。

 

 ――哀哭あいこく

 

 達筆な落書きのある机を挟んで恭一郎と向き合った貫太郎は、ボイスレコーダーのスイッチを入れた。「ええ、これから女優殺人事件の参考人としての事情聴取を行います。まず氏名、年齢、住所、職業を述べてください。念のために告げておきますが、発言はすべて録音しますので、そのつもりで」貫太郎の指示に、恭一郎は抑揚の乏しい声で、ぼそぼそと答え始めた。「善財恭一郎。26歳……高砂市本町1丁目2の……」反抗的というわけでもないが、口説がどことなく釈然としない。

 

 ――明確に延べたくない事情があるのだろうか。

 

 第一のチェック・ポイントと心得た貫太郎は、それきり黙りこくっている恭一郎に矢継ぎ早に催促する。「職業は?」「……」「仕事はなにをしているのですか? まさか、その歳で学生じゃないでしょうね」「株を、少しばかり。いや、単なるフリーターっすよ」やっと答えた恭一郎だが、むくんだ顔はヘラヘラ笑っている。

 

 ――こいつ! 警察を舐めているのか?

 

 苛立つ感情を封じこめた貫太郎は「訊かれた事項に過不足なく答えてください」厳然と告げたが、恭一郎には一向に応えた様子が見えず、「だって、ホントなんだもん」妙なイントネーションで、女子高生のような上目使いを向けてよこす。


 意表を突かれた貫太郎は「これは殺人事件の事情聴取なんですよ。人がひとり、死んでいるんです。ふざけてもらっちゃ困ります」思わず真剣に諭そうとしたが、あろうことか恭一郎のリアクションはかえって弾み「だよね、だよね。みかりん、死んじゃったんだよね~。マジ、ショックだったりするんだよね~、ぼく的に」

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