第15話 ゴージャスな立食パーティの席で



 

「長時間の試写会、どうもお疲れさまでした。では、廊下を隔てた別室へどうぞ」


 記者会見につぐ試写会の大仕事を済ませた佐藤プロデューサーの案内でぞろぞろと道具部屋に移動すると、目を見張るほど豪華な立食パーティが設営されていた。


 きびきびと立ち働く男女スタッフの揃いの白衣には、市内随一の高級レストラン「鯉亭」の縫い取りが見える。清潔な白布で覆われた数卓の丸テーブルには、それぞれ贅と趣向を凝らした見事なフランス料理がところ狭しとひしめき合っていた。

 

 ところで、試写会のあとの打ち上げに出席したのは、つぎの19人だった。


 配給元・シネマビレッジの清田哲司社長。竹山俊司監督。主演俳優の佐々木豪と林美智佳。種々の経緯の結果、映画のエンディングに「原作」ではなく「原案」と明示されていたと露骨に不満たらたらの百目鬼肇。その『フリーター豚・ジロー』の版元・翡翠書房の宝月諒子社長、宝月諒子編集長、香山悠太営業部長。


 この映画の(というか日本のエンタメの)総元締めである広告会社・全信の倉科武雄部長。佐藤三郎プロデューサーと、配下のADの蔵前俊司と大野康平。それに高砂警察署の百瀬署長、吉澤副署長、矢崎刑事課長、中村交通課長。大方のマスコミが帰ったが、文花編集長の恋人を任ずる例の3人は、ぬけぬけと居残っている。


「版元としてのふうちゃんの挨拶、すっごくよかったよ。全体的には?……映画の記者会見は初めてじゃないけど、まあ、おしなべて、あんなもんじゃないの?」

 地方紙記者の虚勢見え見えの訳知り顔は、日日新聞文化部の鷹野正平。


「ふうかりんの口上、いい線行ってたよ。けど、おれの質問もなかなかのものだったでしょう。検証なしの御用達記事なんて、新聞記者の風上にも置けないからね」

 長い前髪を頬まで垂らした三角錐の得意顔は、通信社文化部の上原和也。


「いよっ! 姫、お疲れーっち。言っちゃあわるいけどさ、主演女優よっかさぁ、ふうか姫のほうが、断然、きれいだったよ」ことさらな親密ぶりをアピールしながら、文花の耳元に口を寄せて来たのは、高砂ローカル文化部の立石博朗だった。

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