第11話 それぞれの思惑が交錯する舞台挨拶
至って丁重な物言いながら、その実、断じて付け入る隙を与えない、極め付きの慇懃無礼な司会進行に従い、トップバッターの清田哲司社長がマイクを握った。
「シネマビレッジの清田でございます。これまで下積みの人情路線を軸にして来た弊社にとり、今回の『See you again! ジロー』は異色の学園ものではありますが、寄る辺なき野良豚が主人公という点において、着実に人情路線の血脈を受け継いでおりますので、必ずやファンのご期待にお応えできるものと自負しております」
監督や俳優にはいっさい言及せず、清田社長は簡潔な挨拶のマイクを置いた。
つぎは監督の竹山俊司の番だった。
いい歳をして社会常識を敵にまわすことを個性と思っている、ぶっきらぼう男がなにを言い出すか、文花は佐藤プロデューサーの気持ちになってヒヤヒヤする。
「ええっとぉ、自分はですね……◇☆△?。監督の自分にとって『See you again! ジロー』は8作目の作品なんですが、豚を扱うのは初めてなもんで、正直、戸惑いました。結果? 観てもらえばわかりますよ。脚本から自分で手がけた思い入れの作品ですし、自信のないものを世に出すわけがないんでね、映画のプロとして」
――あのぉ、ちょっと伺いますけど、なんか怒ってます?
恐る恐る問いたくなるような紋きり型の口調できっぱり断言する。だが、別に怒っているわけではなく、興奮をそういう形で表すしかないタイプであるらしい。
3番目にマイクを取ったのは、イケメン人気俳優・佐々木豪だった。
「いまこそ桜花爛漫の高砂の舞台に立つことができ、若輩のぼく的に、大変に光栄に思っています。……ええっとぉ、おそらくはみなさん、キャスティングをご覧になったときは、いささか
――あら、顔もいいけど、頭脳も抜群なんだね。
ジョーク好きな文花は、身体中の細胞がワキャワキャ騒めくのを感じていた。
主演男優のつぎは、本日最高の注目の的である主演女優・林美智佳の番だった。
「えっとぉ、この映画がわたしにとって幸運だったのは佐々木さんの相手役に抜擢されたことです。唯一の無念は最後まで添い遂げられなかったことですが、監督に邪魔をされ、こういうエンディングになりました(場内大爆笑&指笛も混じる)」
――ええ、びっくり! この女優さんも抜群なんだね、ユーモアセンス。
それにしても、前半は意外に本音かも。眼差しが妙に熱っぽいもの。
正直、佐々木豪に比べればいささか見劣りするのでは? と値踏みしていた文花の脳裡を、一般人にとっては雲の上の芸能界の相関図が華やかに過ぎっていった。
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