第10話 マスコミ関係者の嘘と本音



 

 定刻の午後1時ジャストに記者会見が始まった。

 指定された席に着いた文花に、最前列中央から重苦しい3本の矢が飛んで来る。


 ――ちょっと待ってよ。いまはそれどころじゃないんだから。ったくもう……。


 内心で舌打ちしながら版元代表の顔になった文花は壇下の記者席を眺め渡した。


「それではただいまよりご当地を舞台にした新作映画『See you again! ジロー』をお披露目させていただきます。まずは関係者よりご挨拶を申し上げまして、次いで質疑応答に移りたいと思いますので、みなさま、よろしくお願い申し上げます」


 舞台下に設けられた司会席に、四方の天井から斜めのライトが降り注いでいる。

 そちらを見た文花は、えっ! 思わず仰け反った。煌々こうこうと五色のライトを浴びた佐藤プロデューサーは、いつの間にかきっちりと黒いタキシードに変身している。


 ――おっ、やるじゃん、佐藤さん! 大丈夫、ちゃんとそれっぽく見えてるよ。いや、むしろ、格好よくさえあるよ、お世辞抜きで。その調子でがんばってね!


 日頃はライバル関係にある各社が、最初は暗黙裡に持ち上げておき、ある時期に至ると、申し合わせたように一気に梯子を外す。巧妙に批評を非難にすり替える。マスコミ関係者特有の底意地のわるさは、テレビの芸能ニュースを見るまでもなく、身近な新聞記者たちの、傲岸かつ短絡的な思考回路でも思い知らされていた。


 この社会はほかならぬ自分たちの手で動かしているのだ、世論だって容易に操作できるのだと、平気でうそぶけそうな思い上がりほど鼻持ちならないものはない。名刺がなければただのペーペーだったと、そのうちにこっぴどく思い知るがいい。


 虫も殺さぬような文花の胸の内を知ったら、本気で恋愛する気もないくせに役得とばかりにデレデレと脂下がって来る連中は、いっせいに鼻白むに違いなかった。


 あのね、この際だから言っとくけど、自分はそれだけの価値がある男だと己惚れている事実からしてすでに噴飯ものなんだよね。使い勝手のいい記者でなければ、だれが、あんたらなんかと付き合うものですか! 人がわるいのは百も承知だが、諒子社長のサポートを第一義とする文花は、それも仕事の内と割りきっている。

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