第8話 ふうかりんと3人の新聞記者
案内されて舞台の袖に行ってみると、つい先刻とはまるで様相が一変していた。
乱雑に絡み合っていたコード類は、もののみごとに太い1本に
金屏風の前には、テレビで観るような雛壇が整然と設えられており、向かって右から配給元・シネマビレッジ社長/清田哲司、映画監督/竹山俊司、主演/佐々木豪、同じく林美智佳、原作『フリーター豚・ジロー』著者/百目鬼肇、同書版元・翡翠書房編集長/宝月文花……銘々の肩書きと氏名を肉厚の達筆な筆字で墨書した紙を貼り出したそれぞれの席には、マイクとペットボトルの設置も抜かりがない。
舞台の両脇には地元の有名な老華道家の手による巨大な生花(というより生樹)が2基、斬新な抽象模様を描き出している。天井や足もとの随所から放たれる眩いライトが舞台上で交錯し、日常と隔絶した異次元世界を人工的に出現させていた。
*
いつになく緊張した文花は、詰めかけた100人近い報道陣に目を走らせる。
テレビ局はNHKと民間6社が揃い踏みしており、地元ケーブルのテレビ高砂、周辺市町の有線テレビも含めれば計10社ほどが、それぞれ絶好の撮影ポイントを確保しようとて鍔迫り合いを繰り広げながら、会場中に何台もの大型カメラを設置している。
一方、新聞社は、全国紙地元紙を問わず、1社残らず来ているようで、しかも、どの社も敏腕記者にカメラマンを付けている。地元の名門高校を舞台にした映画の封切は、事件らしい事件が起こらない地方都市にとって大事件に相当するらしい。
*
文花が個人的に親しくしている新聞記者が3人、最前列の中央に陣取っている。
眉間に陰気な縦皺を刻んだ哲学青年風は、地元紙文化部の鷹野正平(30歳)。
バーに付き合う代わりに、翡翠書房の全刊行物の書評の掲載を約束させている。
顔も身体もふくよかなお人好しは、別の地方紙文化部の立石博朗(28歳)。
ときどき食事の誘いに応じれば、こちらも全刊行物を律儀に紹介してくれる。
逆三角形の額に前髪を垂らし、花柄のシャツにライトグリーンのマンボズボン。一見ホストかと見紛うような伊達男は東京の通信社文化部の上原和也(32歳)。
売り出し中の新進作家の小説の、全国各地方紙への連載をアタック中である。
年恰好も似たり寄ったりのライバル記者たちはそれぞれ文花を、
「ふうちゃん」
「ふうか姫」
「ふうかりん」
と呼び、自分こそが文花の意中の相手と思いこんでくれていた。
色仕掛けとも言われかねない立ち位置であざとくマスコミを操っている事実を、香山部長にはうすうす勘づかれているようだが、心配性の諒子社長には、いっさい打ち明けていない。ふたりはいま最後列の関係者席で壇上の文花を見守っている。
少し距離を置いた席で、善財亜希子が息子の恭一郎にしきりに愚痴っていた。
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