第三話
3:
力を失った唇が、龍之介の名前を呼んだ。
涙をぼろぼろに流して髪がくしゃくしゃになった燕が、龍之介の羽織の中で震えている。
「おうおうおうおうおう! てめぇらぁ! だれ様の妹泣かしてやがんだ! ええ度胸しとんなぁ!」
バイクのエンジン音をかき消すほどの、龍之介の啖呵。
「ケツの青いガキ共が! 乳母車転がしてチョーシこいてんじゃねぇぞ! 誰を敵に回したか! 教えてやるじぇあああ!」
怒りが爆発したか、もう語尾が言葉になっていない龍之介。
龍之介の吼えに呼応するように、周囲のエグゾーストノイズが強くなる。
「くぁああくぁってぇぇえええ! こぉいやあああっ!」
龍之介が周囲を取り囲んでいる暴走族集団へ向かっていこうとして――
脚をつかまれた!
足元を見ると、燕がしがみついていた。
「つばめ……っ!」
足元にしがみついてくる燕を見て、龍之介が舌打ち。
脚から伝わってくる、燕の震え……。
龍之介の目の前から――すぐ脇へ通り過ぎる改造バイク。
通り過ぎる際に、運転手の腕が伸びてきて、顔が弾かれた。
よろめく龍之介、脚にしがみついている燕のおかげで倒れることは無かったが、
余計に、怖がっている燕が足元にいることを実感させられる。
「く……そっ」
両腕を組んで頭を守ると、背後から迫ってきたバイクに、鉄パイプで背中を殴りつけられた。
龍之介が動けずに滅多打ちにされる一方だった。
しかし、足元には燕が震えている。
と――
取り囲んでいる暴走族の一部が吹き飛んで、黒光りする車が突っ込んできた。
スピンがかった横滑りで、龍之介と燕の前に、横付けするように停止。
――秦太郎の車だった。
「燕さん!」
「大丈夫ですか!」
後部座席から、飛び出すように秦太郎と番太が。
「番太! 燕を頼む!」
龍之介が番太へ叫んだ。
番太が「ういっす!」と気合の入った声で、燕を龍之介から力任せに引き剥がした。
「いやぁ! お兄ちゃん!お兄ちゃん!」
「燕さんしっかりしてくだせぇ!」
錯乱している燕。
番太が龍之介へ手を伸ばしている燕を抱えて、車の中へ一緒に入っていく。
運転していた源之助がアクセルを踏み込んで、番太と燕を乗せた車が入ってきたところからまた引っ込むように走り去っていく。
残ったのは、背を向け合った、
秦太郎と龍之介――
「下衆が……」
低く、うなるような秦太郎の声音。
そして、首を回しながら、凶悪な顔を放つ龍之介。
「生かしちゃおけんなぁ、雑魚助どもめ」
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