第二話

 2:


 耳をつんざくような、バイクのエンジン音。

 眼が痛くなるような強いライト光が、いくつもいくつも襲ってくる。


 引っ張られて、ぼろついた車に乗せられて、放り出されて――


 周囲には、二十人か三十人か……自分に向けられているライト光。逆光して何も見えない。目の奥が強い光で痛い。


 ここはどこなのか? この音は? どれだけのエンジン音が重なっているのか? 大音量で砂嵐の音を聞かされているようだ。何も見えない……何も見えない!


 後ろから、エンジン音が迫ってきた! 慌てて振り向く。


 目が痛い! あまりにも強いライトが視界いっぱいに迫ってきて、眼に光が突き刺さったように痛い!


 すぐそばまで、エンジン音が迫ってきて、ぶつかる――自分のすぐそばを通り過ぎていった。


 走り出して逃げようとしたら、また別のバイクが目の前を横切った。


 バイクの運転手が「うらああああ」と大声を上げて脅かしてくる。


 別方向へ逃げようとすると、すぐさままた別のバイクが!


 目の前でバイクが、振り回されたかのように回転する。タイヤの擦れる音が悲鳴のように、鼓膜から頭の中へ響き渡る。


 何も考えられない、どうすればいいのか分からない――怖い!


 逃げ場を探して頭を振る。気づかないうちに流していた涙が散った。



 ――怖い、怖い、怖い怖い怖い怖い! 

            怖い怖い怖い怖い怖い怖い――怖い!



 頭がガンガンする。


 バイクの激しいエンジン音が、どこにいてもどこからでも怖い音が襲い掛かってくる、逃げられない逃げられない怖い怖い怖い――


 ――もう何も見たくない! もうやめて許して! 誰か助けて! 助けて助けて! 


 自分の体を守るように、逃げるように、とうとうその場にしゃがみこむ。

 必死で腕で耳を塞ぎ、頭を抱えて縮こまる。

 それでもバイクのエンジン音は前から後ろから横からと襲い掛かってくる。目の前でタイヤの悲鳴が聞こえる。目を閉じてもライトの光がまぶたの裏を真っ白に染めてくる。


 急に――


 視界が真っ暗になった。


 バイクのエンジン音も、遠くなった。


 頭の上から、何かが被せられてた事に、顔を上げてようやく気づいた。


 ほのかに人肌の温かみを残した……上着。


 兄の匂いがする。


 気がつけばバイクのエンジン音は、音を出し続けながらも控えめになっていた。


「燕。もう大丈夫や。兄やんが来たで」


 見上げると、兄が――龍之介がいた。


「おにい……ちゃん」

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