6 水平線の彼方に

夕暮れが迫る地球が丸く見える丘展望館の循環バスのバス停前に、ふたりは立っていた。

「あれ、宮内じゃないか。なにしてるんだ、こんなところで?」

「先輩こそ、何してるんですか? 展望館になんか用でもあったんですか?」

「あれぇ、オレなにしに来たんだっけか?」

 道路には、小さな黄白色のセミに似た虫が跳ねていた。そのうちの一匹が優一のデイパックに跳ねて上がってきた。次には優一の耳に飛び込もうと画策しているのは明らかだった。

「先輩、ケータイ鳴ってますよ」

 優一のポケットの中でバイブが振動していた。

「あれ、ケータイじゃないや」

 優一が取り出したのはかっぱが肘を枕に寝そべっているデザインのキーホルダーだった。そのキーホルダーが細かく振動していた。おまけに全体が薄青く点滅していた。

「うわっ、なんですかそれ? キーホルダー? だっさ! それに振動して光るキーホルダーなんてきもっ」

 優一のバックパックについていたセジロウンカはこの振動が嫌いなのか、いつの間にかいなくなっていた。

「先輩、思いっきり趣味悪いですね」

「こんなの、誰からもらったんだろう?」

 銚子駅に向かう最終の循環バスが来た。

「オレ、自転車だからじゃあ帰るわ」

「はい、じゃあまた明日、学校の部活で!」

 バスの座席に座ったひなたは何気なくポーチを開けた。するとさっき瀬上先輩がもっていたのと同じダサいかっぱのキーホルダーが入っていた。えーっ、先輩とお揃い? ひなたは顔をしかめた。そしてしばらくかっぱのキーホルダーを見つめていたが、やっぱ、ないわぁ、と頭をふるとバスの窓から捨てようとして、いったん窓をあけたが、思い直して窓を閉めた。

「後でメルカリに出そうっと!」

そうつぶやくと、キーホルダーをポーチにしまった。ひなたは顔を上げて窓の外をみた。LINEが入った。美央からだった。《どぉ? 先輩とうまくいった?》《何のこと?》《ひなた、何言ってんの?》美央からのLINEは延々続いていたが読むのが面倒になって、ひなたはLINEを閉じた。頭がぼんやりしていた。

走り去るバスの後方で太平洋が夕焼けで赤く染まっていた。その水平線の彼方に銀色に光る物体が飛び去って行ったのに気づいた者は誰もいなかった。

                                 <了>

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地球が丸く見える丘から 鷺町一平 @zac56496

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