第92話 合同テスト!!



「次は打撃テストしたいけど、七瀬悪いけどバッティングピッチャーやってくれない?」



「スカウト付き合うって約束したから全然いいけど…。私がピッチャーでいいの?」




七瀬は良くも悪くもオーソドックスな投手だ。

投げ方に癖もなく、ボールに癖もない。



ストレートとカーブとスライダーと一応フォークのシンプルな構成。

この投手が打てないなら多分他の投手も打つことは難しいだろう。



少し七瀬の投手としての力を過小評価しているように思えるかもしれないが、別にそういう訳でもない。



ここまでオーソドックスな投手も逆に珍しいので、全体的にまとまっていている七瀬に苦戦してるようじゃ変則投手などに対応出来ないんじゃないかと思っている。



俺はもうひとつ考えついたことがあった。




「おーい。夏実も投球練習してて。」



「え!私?簡単に打たれちゃうと思うけど大丈夫なのかな?」



「夏実の球って思ったよりも打ちづらいから大丈夫。もう少し自信もって投げていいよ。」




そういうと明るく返事をして中学生からのチームメイトの七瀬と仲良さそうにウォーミングアップを行っていた。




その間に中学生達は自分たちのmyバットを取り出して軽くスイングしたり、ストレッチをしたりして準備を進めていた。



その途中で2人のバットを貸してもらって、2、3回軽くスイングしてどんなバットを使ってるかを確かめてみた。




上木さんは有名なメーカーの有名なモデルのバットを使用している。


ミドルバランスの誰もが使いやすいタイプで、長さも重さも平均的なものだった。



簡単に言えば硬式をやっている野球少女が使っているバットで、最も使われているバットを使ってる。

それが何が悪いとかもなく、普通のバットで誰よりも打てるならそれが一番なのだ。




逆に本庄のバットの方が意外なものを使っていた。



カウンターバランスで重心がグリップにあるタイプの物だ。

重心が下にあるのでバットが出やすく、ヘッドが下がったり変な癖が出ずらいアベレージヒッターが使うと良いとされるバットだ。

少しだけ他のものよりも太くて重たいものを使っているようだ。


バットコントロールに自信が無いのか、とりあえず当てることを重視してるのかは分からないが今日ホームランを打ったバッターが使うようなバットではない気もする。


別にバットの重心でホームランが打てないとかは全く思わないが、特色的なことで言うと不向きではあると思う。





「今から七瀬3打席、夏実2打席の合計5打席立ってもらうね。別に打てたからいいって訳でもないし、打てなかったから悪いって訳でもないからいつも通りの打撃をしてくれたらいいからね。それじゃどっちが打つか決めて。」




2人は一瞬目を合わせたが、すぐに本庄が先に打つと宣言した。

上木さんはそれを見て少し後ろの方に下がって本庄の打席を観察するようだ。




本庄は打席に入ると少しだけ重心を落として、バットをほぼ平行まで寝かして構えている。


スタンスはスタンダードだが少しだけ広めに構えている。


バットを寝かせるとその位置からバットが出しやすく、綺麗なレベルスイングがしやすく短距離から中距離ヒッターがバットを寝かしてることが多い気がする。



それを一通り確認するとすぐに七瀬にサインを出した。




『ど真ん中高めのストレートだ。』




七瀬は俺の甘い球要求に対してリアクションするかと思ったが、マウンド上でのポーカーフェイスを越えた鉄仮面、いや能面の如く顔色が変化しない投手もそうそうはいない。

キャッチャーとしては何を考えてるか分からないから、もう少しだけ反応してくれても良さそうな気もするが…。





「ストライク。」




ヒットを打つにはこの球以外ないというくらい甘いストレートをあっさりと見逃した。



性格的にもっと積極的に振ってくると思ったが、案外そうでも無さそうで、打ち気が無いわけでは無さそうだが、思ったよりも冷静に打席に立てている。




俺はそっちよりも七瀬のストレートが気になっていた。

あんまり今日はキレとノビを感じられないから体調が悪いのか、それとも手を抜いているのか?




次の球は外角低めにカーブを要求。




『流石に甘すぎる。』



投げた瞬間わかるど真ん中へのカーブの失投。

俺が構えるミットへゆっくりと斜めに変化しながらホームベースに近づいてきた。




始動が遅い。


普通のバッターならここで振り始めるところでまだ振り始めていない。


少し遅れたかというタイミングでスイングを始めた。

俺が驚いたのは最短距離で腕が体に巻き付くようにしてバットがボールを捉えるまでのスピードが女性選手とは思えなかった。



鋭いスイングに最短距離で打ちに行ける技術があるからあそこまで自信満々なのか。



ライト方向へ引っ張った打球はライナーのままフェンスの手前でワンバウンドして、打球の勢いそのままで当たった。


完全に長打コースの打球だった。

甘かったとはいえ初見のカーブをあっさりあそこまで飛ばせるのはいい打撃センスを感じられる。





「もう少し下なら入ってたのに。」




あんないい打球を打っておいて、ホームランを打てなかったのを悔やんでいた。



本庄が打席から離れると間髪入れずに上木さんが打席に入ってきた。

言葉こそ発したり出来ないが、彼女からはとても楽しそうな雰囲気を感じられた。



構えはバットを少しだけ立てて構えている。


構えているところでバットを遊ばせてる人も多いが多いが、上木さんは比較的ピタッと止まっている方だと思う。


少しだけ体を開いて構えるオープンスタンスで、相手のピッチャーが投球に入って、足を上げて下ろす位のタイミングで足を少し高くあげて、タイミングを合わせて強めに踏み込んでそこからスイングするという結構パワーが感じられるいいフォームだと思う。





『ど真ん中高めのストレート。』




感情が表情から分からないので、はいはいという感じにしか受け取れないが本心はどう思ってるのか後で聞いてみよう。




カキーン!!



綺麗な打球音と共にセンター前に軽々と持って行かれた。

完全に真芯で捉えたせいか打球が上に上がらず、強烈なライナーでセンターの前に落ちた。




「…ぺこり。」




七瀬と俺に頭を下げて打席から離れていく。

すぐに本庄が打席に入ってくる。




「七瀬、一旦夏実と交代して。」



マウンドを降りる時に少し笑顔を見せて夏実とピッチャーを変わった。




夏実はとにかく球が遅い。


というのも中学生までの話で、今はそこそこスピードが出るようになっていた。


なのに1番得意としてるカーブは相当遅い。

逆にこのスピードでよくコントロール出来るものだと感心するようなレベルだった。



このカーブは逆に初見で打つのは無理じゃないかと思っていて、打てたとしても結構な確率で打ち損じる面白いカーブだと思っている。





『とりあえず連続でカーブだ。』




夏実にカーブのサインの後にまたカーブのサインを出した。

多分これでカーブを連投すると言うのが伝わっただろう。

なんで俺がわざわざそんなことをしたかというと、ストライク取れなくても少しずつカーブを慣らしていけという意味合いも込めてある。




「ストライク。」




少しだけ反応してきた。

多分打つかどうか迷っていたのだろう。

ここまで遅いと一瞬打つかどうか迷ってからバットを出すことも出来る。



逆にそれが罠になる。

1度どうするか迷ってからしっかり振ってきても、最初の少しの迷いがわずかなバットコントロールの乱れを生むこともできる。



3球連続カーブを投げて2-1。

ここまで1回も手を出してきていない。

タイミングを合わせてきているのだろうが、あんまりタイミングが合ってはいなさそうだ。



1-2からの4球目ももちろんカーブ。

夏実が投げたカーブは少しだけ甘めのところに入ってきてるが、さっきのカーブよりもなぜか遅い気がする。





ガキィン!




タイミングを合わせて打ってきたが、バットの先っぽに当たってしまい今は無人のセカンドへのハーフライナーみたいな感じになった。




「くっ…。江波先輩のカーブ打ちずらい…。」



3球連続も振らずにしっかりとタイミングを合わせてきたが、スイングしなかったことが悪い方に出ててぶっつけ本番で失敗した感じだ。





打席には早くも上木さんが入っている。


この前のバッティングセンターでは90km/hのカーブを簡単に打ち返していた。


今日の夏実は調子がいいと言っていいのかカーブのスピードがとにかく遅い。



いつもは80km/h前後くらいなのに今日に限って75km/hくらいしか出ておらずほぼスローボール状態になっている。




俺は変わらずにカーブ要求。

夏実もそれを分かっているのでとにかく遅いカーブを投げようとしてきてくれている。





カキイィィーン!!!




少しだけ甘めのカーブだったが、またも初球からフルスイングしてきて打球はまたしてもセンター方向へ大きい打球は飛んでいく。




打球はセンター110mの数メートル手前でぽとりと落ちた。

完全に捉えてはいたのだが、多分球が遅すぎたのか反発力が足りていなかったのか少しだけ上がりすぎてホームランにはならなかった。




「ツーベースかな?センターフライかな?」




【センターフライです!】




すぐに携帯を取り出して俺にセンターフライと自ら申告してきた。

テストだからこそ素直に申告した方が俺はいいと思っている。ツーベースにしてもセンターフライにしても打った打球が変わる訳では無い。




この後の打撃成績は2人とも5打数3安打だった。




本庄はあの後も夏実のカーブを打てなかった。


低めのカーブを上手く打ってきたが、それもレフトフライになってしまった。

逆に今日明らかに調子の悪い七瀬からきっちりと3打数3安打してきて、七瀬のカーブは全く通用せずに結局長打2本打たれた。


少し気になったのが、打った打球は全て右方向の引っ張りだった。


カーブを積極的に打ってきたから引っ張り方向になるのは仕方ないのだが、それにしても逆方向に打球が1度も飛んでないのはもしかしたらプルヒッターなのか?




上木さんは逆にわざとなのかセンター方向にしか打球を打っていない。


夏実のカーブを同じようにセンター方向に打ち返して今度はワンバウンドでフェンスに当てたので、文句なしの長打になった。


七瀬との最後の打席で1番力を入れて投げたストレートを弾き返したが、ショート真正面のゴロに倒れてしまった。


上木さんの方はどちらかと言うとストライクゾーンに来た球は基本的にスイングしてくるタイプのバッターだった。

これは多分だけど、バッティングセンターでどんどん打っていく癖がついたものでは無いかと推察してみた。




ここまで2人のプレー見てきてある程度の能力をつけることが出来た。




左側が上木さんで、右側が本庄の点数。



打撃能力



70-75長打力60

75バットコントロール60-65

60選球眼70

65-70直球対応能力65-70

80変化球対応能力50-60

60バント技術65-70



守備能力


60守備範囲85-90

30-40打球反応60-65

80肩の強さ50-55

100送球コントロール70

40捕球から投げるまでの速さ80-90

50バント処理70

90-100守備判断能力70-80

100積極的にカバーをしているか100



走塁能力


60足の速さ75-80

25-30トップスピードまでの時間 100

盗塁能力 両者とも不明

85-90ベースランニング 60

走塁判断能力 両者とも不明

20打ってから走るまでの早さ70

スライディング 両者とも不明。




両者とも文句なくA特待の選手だ。

これからもっと成長すればいい選手になるだろうし、入ってすぐレギュラー争い出来るかもしれない。

上木さんの方はしっかりと対策を練ってコミュニケーションを取れるようにしておかないと。




問題はここからだ。



俺がスカウトして来るかどうかの問題が残っている。

2人ともテストに来たと言っても別に入りたいと言っている訳でもないので、普通に断られる可能性がある。




「上木さん、本庄さんちょっと話し…。」





「上木さんってピッチャーも出来るんだよね?それなら私と勝負しない?テスト生同士勝負して実力見せ合うってのはどう?」




「…こくこく。」




俺が知らない間に勝手に話が進んでいた。

やる気満々の本庄に対して、少し臆しているかと思われた上木さんだがまさかのノリノリなようだ。




「やる気みたいね?それなら勝負しましょ。」




俺の予期せぬ戦いの火蓋が切られた。

果たしてこの2人の勝負はどうなるのだろうか?



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