第68話 ゴールデンウィーク!
ゴールデンウィークに突入して、五連休中に8試合というかなり詰め込みの試合を行うことになった。
俺の提案で試合途中からでも1年生を使って見てほしいという意見が通り、相手チームにその旨を伝えたら向こうのチームも試合後半でメンバーを替えてきてくれて、素人4人組も実践デビュー出来た。
結果は言うまでもなく全然ダメだったが、4人は試合に出れてすごく嬉しがっていてやる気がまた出たみたいだった。
8試合で活躍した選手の成績だけまとめてみた。
西梨花。
1試合目
結果回安振四死失責
梨花7673033
8試合目
結果回安振四死失責
梨花7561122
中3日で7回を連続で完投して、どちらもかなり成績をしっかりとまとめてきてスタミナにも問題なしというのが分かった。
少しコントロールが乱れた部分もあるが、そこら辺は3年間でしっかりと直していく予定だ。
七瀬皐月。
投手成績
4試合目
結果回安振四死失責
七瀬6340000
打者成績
3試合出場
打安本打四死盗
8201100
投手として先発した試合はかなりきっちりと抑えて結果を出してきた。
他に2試合中継ぎで投げた時はどちらも短い回で失点してしまった。
打者としては可もなく不可もなくという感じだった。
捕手として出場したが、終始精彩をかいたプレーが多く課題だらけの高校捕手デビューとなった。
四条かのん
5試合に出場。
12打4安0本2点3四0死5盗
打率.333でいい成績だったが、無安打の試合が2試合ありそれがちょっと気になったが、四球も最低限選んで塁上では未だに盗塁失敗なし。
守備は絶好調でエラー無し、ファインプレーも何度か確認できた。
橘桔梗。
5試合に出場。
13打5安1本5点3四0死0盗
.384でしっかりと結果を出して1本のホームランはサヨナラツーランホームランを打った。
桔梗は今のところ何も問題は無いだろう。
時任氷。
7試合出場のうち代打で5試合に出場。
11打5安0本4点1四0死0盗
.454で代打出場の5試合は5打数2安打という結果だった。
安定した打撃力を見せたが、レフトの守備で1回見事にトンネルしてランナーが2人帰るという失態があった。
他のメンバーも一応成績をまとめておく。
出番が多かったメンバーから上に記載。
結果打安本点四死盗
美咲9201101
柳生8302101
月成11403000
緒花7100000
王寺7201002
江波5100100
市ヶ5000010
雪山3000000
青島2000000
花田2000000
里奈2000000
この中なら月成が複数のポジションを守れることを生かし、打率も.363という好成績を残した。
柳生も打撃はそこそこだが、捕手としてパスボールもなくどの投手もよくリード出来ていたと思う。
「あー。こんなに沢山試合を見学したし試合にも出れて審判も初めてやったから楽しかったなぁ。」
満足してそうな顔をしているのは、ボクっ娘の月成だった。
8試合目の練習試合が終わって解散したあとも少しだけグランドに残って感傷に浸っていた。
「月成さん。お疲れ様。そう言えばカフェオレが好きだったよね?良かったらこれ飲んでいいよ。」
「え?あ、ありがと!東奈くんも毎日大変そうだよね。ゴールデンウィーク中は2試合目位しか来なかったけど、スカウト活動したりする?」
「よく分かるね。今回はそんなに大変じゃないんだよ。去年2年生もチェックしておいたから、有望そうな子のリストを出しておいて天見監督に選んでもらうことにしてるからね。」
やっぱりこの子はよく俺の事を見てると言うか、人の気持ちとかが分かるんだろうか?
俺の隣でグランドを眺めながらカフェオレを美味しそうに飲んでいる。
「ちょっと聞きたいことあるんだけど、名前にコンプレックスがあるのは分かってるけど何で自分のことボクって言うのか知りたくて。あんまり深い意味は無いかもしれないけど。」
「そうだねー。昔からカッコイイものに憧れることが多かったんだ。ロボットとかヒーローもそうだよね。東奈くんのお姉さんの試合を見た時にこの人カッコイイってすごい思って野球を始めたの。」
俺に憧れて俺を目指したと言っていたが、野球の入りは姉に憧れてだったんだと初めて知った。
うちのチームにも姉のファンがいたし、2年3年も当時だと9.10歳だからさらに印象深い人ももしかしたらいるのかもしれない。
「野球をやってて、そしたらキミのプレーを見てすぐに憧れちゃった。練習してる球場とかも見に行ったりしたって話したよね?その時に一緒にいた女の子が橘さんだったんだなって。」
「入学して、橘さんの実力を見てたけど最初はボクもキミの傍にいればそれくらい出来たはずって嫉妬してたけど、この前のノック見て思っちゃった。彼女は努力して、努力の天才よりも更に努力を重ねられる人だって。」
確かに桔梗は小学生の時までは俺と蓮司とかでとにかく練習していたが、中学生になってからほとんどどんな練習をしていたかも知らない。
福岡でも強いガールズチームに入っていたからしっかりとした練習をしてはいたんだろうが。
「あ、ボクっていう理由から話が逸れちゃった!とにかくかっこいい女の人になりたかったんだよっ。今は日本人形みたいな髪の毛とかだけど…。」
「見た目だけが全てじゃないさ。姉は確かに身長も高いしプレー見てたらかっこよく見えるけど、性格は自由奔放で破天荒なことばかりしたがる最強のワガママ娘って感じだよ。」
月成はへーそうなんだという感じで俺の話に聞き入っていた。
そういえば高校に入ってからあんまり話をしていない気がしたし、誰かと仲良くしてるイメージもない。
かといって誰かと仲悪いという感じもない。
「ボクのこと地味なボッチだとか思ってたでしょー?胸くらい大きかったら特徴もあったのかもしれないけど、それも普通だし…。」
俺も図星でなんも言えないというか、やっぱり心の中を読めるのかと思った。
「けど、月成さんはなにか人とは違うものを持ってると思うけど?あとテストだってあの時の月成さんの実力じゃ3本連続で打てるとは思わなかったけど。」
「あぁ…。あのテストね!あれはね…。」
「ツッキー!お疲れ会するって言ったのにこんな所に居たんだ!東奈くんも一緒についてくるの?」
「お疲れ会?俺は行かないよ。たまたまここで見つけたから話してただけだからね。」
「東奈さんも来てもいいんですよ?いつもコーチとして大変そうにしていますし。」
同じクラスの円城寺と夏美が現れた。
確かにこの3人は仲良さそうにしてるのを忘れていた。
円城寺と月成は元々3年間男子の中で女子二人で野球をしていたし、仲良くないわけがないか。
「なら3人ともあんまり遅くならないように楽しんで、明日は休みだからゆっくりと体を休めて来るんだよ。」
「「はーい。」」
俺は次こそ帰ろうと思っていたが、また次の女の子に捕まってしまった。
「東奈。今から帰るの?少し時間あるならちょっと付き合いなさい。」
このちょっと偉そうな口調なのは、エースピッチャーの海崎先輩だ。
「海崎先輩お疲れ様です。別に大丈夫ですけど、俺に用事ってのも珍しいですね。」
「珍しいっていうか初めてなんだけど。この練習試合で私あんまり投げてないからちょっと投げたりないんだよね。だからコーチとして私の球受けてくれるよね?」
これは有無を言わせない感じだ。
これで断るのは相当肝が座ってないと無理だろう。
「いいですけど、肩は出来てるんですか?」
「出来てないからキャッチボールから付き合いなさい。」
「は、はい…。」
俺と海崎先輩は室内ブルペンに移動した。
白星高校は室内練習場がある。
あると言ってもみんなで野球するようなレベルではない。
俺の家の室内練習場よりも広いけど、うちの家の方が設備は揃っているだろうし、ここはとにかく暑い。
雨風が通らない作りなのか、5月初旬でもかなり暑い。
「ここって扇風機くらい付けてくれないの?コーチなら扇風機くらい設置するように言ってくんない?」
「とりあえず言ってはみます…。」
俺は俺より30cm以上小さい女の子からずっと下から命令されている。
こういうことは入学して1ヶ月で慣れては来たが、流石に帰ろうとした時にこの命令は少しだけ堪えていた。
キャッチボールも終わり、ピッチング練習を開始した。
俺はとりあえずプロテクターとマスクだけはしてボールを受けた。
初めて受けるが、少しだけ浮き上がるようなストレート。
ソフトボールのライズボールに近いのか?
これは結構初見で打つのは難しいだろう。
途中まで浮き上がる軌道でそこからシンカーとカーブは結構落差もキレもいい。
バシッ
「サインも出さずに初めて受けるのによく落とさずに変化球取れるね。」
普通はサインを出さないと危ない。
変化球と見極めることが出来てしっかりと反応出来ないと、変化球と思ったらストレートだったりするとそのまま顔面にボールが当たるということになりかねない。
俺はボールの縫い目がどちらに回転しているか見えている。
海崎さんのアンダースローの球が速いといっても精々110km/h出てたらいい方いいだろう。
それくらいならサイン無しで普通にストレートも変化球も捕れる。
「まぁ、元々キャッチャーですから。」
「答えになってないわよ…。」
たまに俺が捕れないボールを投げるために変化球くらいのわざと遅くしたストレートを投げたり、カーブの回転をかけてボールをあんまり曲げなかったり。
「あの。変な球投げるのやめてもらってもいいですか?」
「ふふっ。付き合い悪いのね。こういうときは笑って付き合わないと。」
「えぇ…。」
彼女は変わってるというか、少しだけ女王様気質なのか?
ピッチャーだからこれくらいのがいい気もするが、付き合わされるキャッチャーも大変だろう。
「付き合ってくれてありがとう。やっぱりキャッチング技術はちょっとレベルが違いすぎるわね。」
「そう言ってもらえると嬉しいです。」
「ちゃんと実力者って分かったし、気分が向いたらたまには受けてくれてもいいから。」
「柳生とか七瀬を投手としてリードして成長させてもらえるなら喜んで受けますよ。」
「それは彼女たち次第じゃないの?私は投げることしか出来ないけど。」
俺はまぁ確かになと思いながらもこの投手を上手く扱うのは七瀬か?柳生か?
俺はエースの海崎さんに認められたのか分からないが、2年生とも仲良くならないと、来年までは一緒に付き合う仲間なのだ。
海崎先輩のおかげで新たな課題が見えたと感謝しておくことにした。
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