第48話 久しぶりの再会!



「もしもしー。龍くん、こんばんわ。いきなりだけど、福岡県内の野球を志す中学3年の女子を集めて練習場とかを提供してるのは知ってる?」




「今初めて聞きました。それを見に行けってことですかね?」




「それはそうなんだけど、高校で野球をやる為に硬式になれていない軟式の選手とか、中学校ではベンチの選手とかを中心にやってるのね。だから、橘さんみたいな選手たちは来ないからいい選手がいるかは怪しいけど行ってみてくれる?」




「それは問題ないですけど、それやってるのは何時なんですか?」




「火曜木曜の6時から9時と、土曜の朝の9時から13時にやってるよ。ちなみにそこに月成さんとか軟式から来る3人も練習してるみたいだから、アドバイスくらいしてあげたらどうかな?」




「なるほどですね。あの3人がいるならもちろん喜んで行かせてもらいます。」




「それは良かった。それじゃよろしくね。」




俺はあの3人に会って、高校までにやっておいて欲しい筋トレなど肉体を鍛える為のトレーニングメニューを作った。



軟式の3人と門司の2人と公園少女の美咲にはまだ渡せてなかったので、会いに行って渡そうと思っていたがちょうどいい機会が訪れた。




電話があった週の土曜日にその練習会場まで行くことにした。

場所は結構遠く自転車で約1時間かかる。



準備をある程度終えて、野球道具で忘れ物がないかを最終確認して朝8時前に家を出ることにした。




「おはよー!朝から通い妻が健気に来てあげましたよ!」



家を出るとまさかの美咲が家の前に現れた。

朝からまた訳の分からないことを言ってるが無視した。



「おはよう。今から出かけるけど、何しに来たん?」




「出掛けるのは見ればわかるよ!ちょっとついて行ってもいいかな?」




「別に美咲が行っても大丈夫なところだからいいけど、ここからこの自転車で1時間かかるぞ?」




「大丈夫大丈夫!私の自転車も同じタイプだからついていけるよ!」




俺はなんでここに美咲が来たのかを聞くのを忘れていた。

彼女も何も言わなかったので、そんなことを忘れて会場に行くことにした。





「ねぇねぇ!今日のパーカー可愛くない?この前見つけて買ったんだよねー。」



今日は白熊かな?

いつものようにフードを被っているが、フードには白熊の耳と目がついてある可愛らしいパーカーを着ていた。




「パーカーは可愛いね。」




「こらっ!美咲が可愛くないみたいな言い方はやめなさい!」




いつもみたいに突っ込み突っ込まれを繰り返しながら、練習場についた。



9時から練習と思っていたが、結構早めにみんな集まっていて準備運動などは予め終わらせているようだった。



「そういえば美咲にもこれを渡しておこうと思って。」




俺は自分で作ったトレーニングメニューとやり方を絵にして分かりやすいように何枚かの紙にまとめていた。



体の動きを書いたこのとてつもないくらい上手い絵はかのちゃんが書いたものだ。



かのちゃんは模写というか絵がめちゃめちゃ上手かった。

あんな感じだからなのか、天才肌で芸術も出来るんだなと凄く感心した。




「この絵よくかけてるね!凄く分かりやすくて助かる!このトレーニングやればいいんだよね?」




「毎日じゃなくていいぞ。筋肉痛になったと思ったら1日、2日休んで他のところをトレーニングしたらいいから。」




トレーニング方法の書いた紙を真剣な表情で見つめて、難しそうな所はしかめ、珍しいトレーニング方法のところは驚いたような顔をしてわかりやすい奴だなと思いながら眺めていた。




質問にも簡単に答えて納得した表情でカバンに大切そうにメニュー書いた紙をしまっていた。




グランドで行われてる練習を見ていたが、美咲もどうしても野球をやりたいと駄々こね始めた。



俺の家の室内練習場で練習していいからと宥めることしか出来なかった。



「いいなぁー。OGとしてグランドに行っても邪魔できないから端っこの方で練習するしかないし、私も

広い球場で練習したいなぁ。」



言いたいことは分からなくもない。

けど、それは我慢してもらうしかない。




みんな硬式に慣れようと必死に練習していた。

俺が見た感じ打撃だけで言えば円城寺さんはとてもいい感じで打てている。



パワーがあるから硬式に負けることなくいい打球を打っている。




王寺さんは相変わらずバランスがいい選手で、硬式の外野ノックには少し苦戦してるようだがちょっとずつ成長してるみたいだ。



1番動きが良かったのは月成さんだった。

野球を頑張る目標を手に入れてこれまで手を抜いていた分を取り戻そうと頑張っていた。




練習が終わるまで美咲の野球したいアピールを聴きながらも色んな選手たちを見ていた。



「おい、美咲。お前も選手を見るの手伝ってくれ!たまには俺の言うこと聞いてくれてもよくないか?」




「わかった!色々と見てみるね!」




美咲にはどの選手が俺のスカウトした選手か言わずに分かるかどうかも気になったので、とりあえず黙っていることにした。



美咲はとりあえずなにかお願いすればしっかりとちゃんとやるみたいだ。



もしさっきなにも言わなかったら、ずっと俺は野球がやりたいと聞き続ける羽目になったのだろうか?




「龍くんがスカウトした人3人だよね?多分だけど…」



1時間くらいしてある程度色んな選手を見たのか3人の選手に指をさしたが、1人だけ外れていた。



月成さんだけは分からなかったみたいだ。


彼女は特徴のある選手ではないし、周りから見ても地味に見えるだろう。



俺ももちろん最初はそう思って、テスト形式だったが対戦してなにか普通の選手と違うものを感じたし、普通に打たれてしまった。



彼女の素質は俺にしか分からなかったのではないだろうか?


というよりも彼女の憧れが俺だったからこそ見つけることが出来たというのが正しい。



もし見つけてなかったら多分中学で野球を辞めていただろう。





「1人はハズレだね。けど、もう1人選んだあの内野手はどうしてそう思った?」




「うーん、なんだろう。身体能力高くない?なんかぎごちないところあるけど野球歴短いんじゃない?」




俺はなるほどなと思った。

身体能力が高いのは分かっていたが、野球歴が短いと言われればそんな気もする。



俺は練習が終わるのを待って、彼女の話を3人に話を聞くことにした。



みんな仲良く一緒に球場から出てくるかと思ったがみんなバラバラに出てきたから、一人一人をとりあえず捕まえて話を聞くことにした。




「王寺さんお疲れ様。ちょっと硬式のボールの伸びにまだ少しだけ手こずってるみたいだね。」



俺はそういうとトレーニングメニューを彼女に手渡した。

内容をパラパラと見るとすぐにバックにしまった。




「お疲れ様。トレーニングの内容は多分ざっと見た感じ大丈夫と思うっちゃけど、ここでの練習って意味あるとかいな?」



「あると思うよ。今こうやって球場で練習出来る人の方が少ないし、やっておいた方がいいよ。そういえば、白星に入るもう2人の人とは仲良くやれてないん?」




「え?白星に入る人がここにおるん?全然知らんっちゃけど。」




確かにこれは野球部に在籍していた人や、硬式野球でベンチだった人が監督に推薦されてここに来るシステムみたいなので、天見さんになにも言われてなければ知らなくても当たり前か。




「ちょっと待ってたら出てくると思うから待ってみる?」




「折角やし待っとく。一緒に練習してるのに話さないなんて勿体ないし。」




こんな話をしていると月成さんと円城寺さんが2人で現れた。




「2人ともお疲れ様。あの時以来やね。元気よくプレーしているところを見れて安心したよ。」




「あら。東奈さん、お疲れ様です。あたしはとても元気にやってますよ。硬式は打った感じがとても気持ちよくて打撃練習ばかりやってしまいます。」




「東奈コーチ!こんにちは。ボクもこれまで力抜いてる分毎日たくさん練習してるよ!」




2人は俺と久しぶりにあったことを喜んでくれていた。



少し話した後にトレーニングメニューを2人に渡して質問をしてもらったが、月成さんが目を輝かして色々聞いてきたので2人もそれを聞いて理解を深めていた。




「あ、質問攻めで紹介し忘れたけどこちらが王寺凛さん。それでこちらが月成…さんと円城寺緒花さん。」




「王寺凛よ。話したことはあったけど、改めてよろしく。」




「ボクは月成姫凛灑澄です。名前には触れないでくれると助かります。改めてよろしくです!」




「あたしは円城寺緒花です。王寺さんのプレーはどのプレーも上手くて尊敬していました。改めましてこちらこそよろしくお願いしますね。」





みんなの挨拶もそこそこにさっきの彼女の話を聞こうとしていた矢先に元気のいい彼女が現れた。




「おー。みんなが来年から一緒に野球する仲間なのか!私は中田美咲!みんなよろしくね!」




そういうと一人一人に抱きついてスキンシップをはかっていた。

王寺さんだけは少し嫌そうだったが、みんなぎこちないながらも美咲を中心に楽しそうに話していた。




俺はこの雰囲気を壊すことをせずにみんなの話を黙って聞いていた。



話もある程度一段落したところで三人に質問することにした。




「そういえばみんなあの身体能力が高いけど、そこまで野球上手くないショートとかサード守ってる女の子分かる?」




みんな一斉になんとなく誰のことか分かったような顔をしていた。

同じような認識なのだろう。



「多分、雪山沙依(ゆきやまさより)さんやないかな?ちょっと惜しい感じって言えば彼女以外にピンとこんしね。」




一番最初に口を開いたのは王寺さんだった。

その名前を聞いて一同納得したような顔を見せた。




雪山さんか。


まだ4人特待生の枠があったので、ちょっと気になる存在であった。




また今度の機会に彼女のことを見に行くとこにした。




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