第47話 口喧嘩!



俺と桔梗は江波さんに少しだけ挨拶して2人で帰ることにした。




「あ!東奈くん!試合見に来てたんだね!」




「お疲れ様。いい試合だったけど惜しかったね!ちょっとは球速くなったかな?」




「2ヶ月くらいこれまで逃げてきた筋トレしてきたらなんか力ついた気がする!」




「これまでしたこと無かったら実感しやすいかもね。けど、ただただムキムキにすればいいって訳じゃないよ?体格にあった筋力量を付けられればそれが一番いいからね。」




「はい!コーチの言う通りに頑張ります!」




とても嬉しそうに笑っていた。

その顔を見ると疲れた心が洗われる気がする。




「東奈くんの隣にいるひとってもしかして橘さん?」




「こんにちは、はじめまして。試合見てたけどいい試合だったよ。後ちょっとだったね。」




「桔梗ちゃんやっぱり有名なんやね。」




「そんなことないと思う。」




謙遜しているが、福岡の女子硬式野球で彼女より有名な選手は多分居ないだろう。




「江波さんでよかったよね?私も白星高校に行くことに決めたから、来年からチームメイトとしてよろしくね。」




「えぇーー!東奈くんホントなの?」




「まぁ正式に決定した訳では無いけど、嘘じゃないよ。」




江波さんはとても驚いた様子だった。



九州でも最強の打者と言われる桔梗がそんなに強くない白星高校に来ること自体普通なら考えられないだろう。




「ごほん。私は江波夏実です!桔梗ちゃんって呼ばせてもらってもいいかな?とても下手っぴですが、一生懸命頑張るのでよろしくお願いします!」




「私は橘桔梗。なら夏実って呼ばせてもらうね。こちらこそよろしく。」



2人は軽く握手をしていた。



この2人は仲良く出来るだろう。

江波さんみたいな人を桔梗が嫌いになるとは思えないし。




「東奈くんじゃない。お久しぶりね。」




そこに現れたのは2ヶ月前にスカウトをしたが、監督に阻まれて返事が貰えなかった七瀬さんだった。




「七瀬さん。久しぶり。あれからしっかりとキャッチャーの練習してる?」




「まぉほぼ投手練習しかしてないけどね…。」




相変わらずあの監督は七瀬さんに投手をやらせるつもりなのか。


いくら才能があってもやりたくないものを強制させてもそれ以上は上手くならない。


そのポジションにプライドを持ち、1番は好きでなければいけない。




「あなた七瀬さんだったよね?まだ投手やってるの?」




そう言って横から会話に入ってきたのは桔梗だった。

結構キツめの言葉というか棘のある言い方で突っかかっていった。




「橘さん…。久しぶりね。まだ一応投手やってるけど、それがあなたに関係ある?」




「ない。けど、投手のあなたと対戦するのは嫌。打たれても抑えてもどうでも良さそうな投手と誰が対戦したいと思う?」




「またそんなこと言って…。あなたには関係なくない?」




この2人…。

仲良くないのか?前から因縁がある様子だが、桔梗がこんなにも嫌悪感を抱くのはなにか決定的な何かがあったんだろう。




「はぁ…。龍。この人と話すことないからちょっとあっち行ってるね。」




「待ちなさいよ!言いたいこと言って逃げるな!」




「まぁまぁ2人ともとりあえず落ち着いて。喧嘩しないでとは言わないけど、お互いにちゃんとした主張しないと話は進まないよ。」




俺はとりあえず2人を落ち着かせることにした。

江波さんも七瀬さんをどうにか宥めようと必死に手伝ってくれた。




「夏実…。落ち着くからちょっと離してくれる?」




「あんまり喧嘩したらダメだよ。同じ野球してる仲間なんだから。」




2人は少しだけ落ち着いたみたいだ。

それでも少しだけでまだ目から火花が見える程度にはバチバチしてそうだ。




「さっき龍の話聞いてたけど、キャッチャーやりたいならなんでやらないの?チームのためなの?」




「うちには投手がいないし、監督がキャッチャーをやらせてくれないから…。」




「それくらいの理由でキャッチャーやらずにピッチャーやってるならキャッチャー諦めたら?」




「なんでそんなことあんたに決められないといけないの?」




「なら、いつキャッチャーするの?ピッチャーで特待生として強豪校に行って投手やって、もし投手としてプロに入ったりしたらいつキャッチャーするの?早く諦めてピッチャーしたらいいのに。」




「くっ…。」




七瀬さんは何も言い返せないようだ。

このまま肩の強さを生かして投手を志していけばいい投手にはなれるだろう。



このままキャッチャーを簡単に諦めるとも思えない。


だが、特待が来ているのは投手としてなんだろう。

キャッチャーとしての能力は今のところギリギリ落第点だし、打撃もいいという訳でもない。





「キャッチャーとしてやりたいなら白星高校に来たら?龍にスカウトされたんじゃないの?龍からそういう話は聞いてないけど、龍ならキャッチャーとしてあなたを誘ったはずだけど。」





「確かに東奈くんからキャッチャーとして誘われたけど…。」





「知ってるんでしょ?龍はキャッチャーとして優秀ってこと。3年間でキャッチャーとして上手くなればいいと思うけど。」




まだ七瀬さんの様子から見てどこに行くか決めていないようだった。

確かに来てくれるならとても有難いが、キャッチャーとしての能力なら暫くは同学年の柳生さんには勝てないだろう。




「俺からも煽るわけじゃないけど、門司の柳生亜衣さんってキャッチャーが来るんだよね。七瀬さんじゃ1年生の間はまずポジション争いには勝てないと思う。主にキャッチャーをやりながらたまには登板してもらわないといけないと思う。」




「なるほど…。門司の柳生姉妹の妹の方か。あっことは何回か試合したけど、上手かった記憶があるね。」




柳生亜衣という名前を聞いて、七瀬さんも更に揺らいでいるのか?



チーム内にライバルがいるというのはかなり成長出来るが、どちらかが敗れて結局試合に出れるのは1人しかいない。


それに勝つ自信が無いと中々踏ん切りもきかないだろう。




「やっぱり今はすぐに決められない。けど、返事はちゃんとするから。」




「その返事は俺じゃなくて、この連絡先の天見監督に返事してもらってもいいかな?最後にどういう決断をしたかは入学試験の時にでも楽しみにしておくよ。」




「分かった。今日はみんなとお疲れ様会やるからお先に失礼させてもらうね。」




「東奈くん、私も行かなきゃだからまた今度ね!」




「2人とも3年間お疲れ様。それじゃ楽しんできてね。」




俺と桔梗は駅の方向へ、七瀬さんと江波さんはチームの元へ戻って行った。





「桔梗ちゃん、ありがとね。」




「何の話?それより何か食べて帰ろう。」




桔梗はすっとぼけてるが、あんなに煽ったり喧嘩腰だったのは七瀬さんの背中を押して白星に入れさせようとしてくれてたと思う。



最初の喧嘩は純粋に投手としての七瀬さんが嫌いという感じだったが。




こうして俺の夏は終わった。




それによって俺のスカウト活動も終わり、後は軽く勉強したり自分の野球の技術や知識を広げることに時間を使うことにした。




けど、スカウト活動は続けていた。

一個下の後輩もスカウトしないといけなくなるかもしれないからだ。





月日が過ぎて10月の半ばに天見さんからまた電話がかかってきた。




「次は一体なんの話なんだろうか…。」





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る