第3話 姉襲来!



学校も終わり部活動にいく同級生たちを横目に帰宅しようと校門を出た。



そして、そこには生徒の目を引くド派手な真っ黄色な確か1000万円はくだらないスポーツカーが止まっていた。



俺は物凄く嫌な予感がした。


去年、自分にプレゼントと言い張って高級なスポーツカーを買ったと言っていた。



その中からしっかりと鍛えられているのがはっきりと分かる引き締まった体の長身の女性が出てきた。




それは女性初のプロ野球選手東奈光。俺の姉である。



自分が説明すると個人的感情が入るので、たまたま見つけて買ったスポーツ雑誌のコラムで姉のインタビューが掲載されていたのでそれで姉の説明をしようと思う。





東奈光。25歳。


178cm.75kg。

左投左打。

ポジション、投手。



小学生から高校生まで男性に混ざり野球の腕を磨き続けたアスリート。


高校の3年時に新設された女子野球部に1ヶ月半だけ在籍し、公式戦初出場のチームを圧倒的なピッチングで甲子園進出に大きく貢献した。


今年13回目の女子甲子園の開催だが、7年前の甲子園の東奈光選手の大活躍は色褪せるどころか、いつも熱戦を繰り広げたあの2試合のネットの再放送はなどはいつも大盛り上がりで、野球に興味のない人でもあの2試合だけは心に残ると答えている。



100年の歴史のプロ野球で女性選手として初めてドラフトで指名。


18歳で育成枠ギリギリで指名されたが、その後支配下登録され活躍したとは言い難い成績を残した。

それでも女性としてここまでやれることを示した東奈光選手の功績は大きい。


その彼女も去年の暮れにプロ野球選手を引退。

4年連続で有名人女性部門の好感度ランキング1位でスポーツ選手としてCM起用1位の大人気選手だ。


引退してからはCMなどは出るもののテレビの露出が少なくなり、私生活は謎に包まれている。


今現在もハードトレーニングを続けているらしく、東奈選手が女子プロ野球に殴り込む日も近いかもしれない。




そんな有名で動向を気にされている姉がまさか高級車に乗って中学校の前にいると誰か思うだろうか?



自分の姉が学校の前に迎えに来ることなどこれまでにもちろん無かった。だが、現実は俺のお迎えに来ていた。



ここで姉を無視するなんて無理だった。



俺は小さい頃から中学2年になった今でも姉に歯向かう気力が起きなかった。



本当の意味での破天荒な姉に小さい頃からこれまで色々なことに付き合わされた俺は、そのおかげなのか大抵の女性を苦にしないという変な特技を手に入れてしまった。




「りゅー。お久ー!」



野球を辞めたと伝えてから1度も会っていない姉と3ヶ月ぶりの再会だが、相も変わらず元気そうだった。



「姉ちゃん…。なんで学校まで来たん?こんなド派手なスポーツカーまで乗ってきて…。」



「そりゃ、私がスターだから。スターが軽自動車とか乗ってたら夢を与えらんないでしょ?」




姉の言ってることは俺も最もだと思うが、学校まで来たことは完全に無視している様子だった。



「だから、学校に…。」



「あーもーいいよ。りゅーの話なんて聞きたくないー。」



追求を避けるためにこれでもかというくらい露骨に嫌がってきた。




「ひ、ひかりさーーん!!!」



大声で光さんなんて必死に呼ぶやつは俺の知っている友人の中では一人しかいなかった。



振り向くと案の定、桔梗がこっちに向かってダッシュしてきていた。




「お。桔梗!大きくなったね!」



「光さん、お久しぶりです!引退しちゃったんですね。とても悲しいです。もっともっと光さんのプレーを見ていたかったです。」




桔梗はいつもはあんなに口数が少ないのに、こういう時だけはペラペラと話すような女の子であった。



姉は桔梗の頭をよしよしと撫でてあげ、久しぶりの再会を心の底から喜んでるようだった。




「私もちょっとした条件がクリア出来たら、女子プロ野球に挑戦しようと思ってるんだ! それがクリア出来るか出来ないかは…。」



姉から衝撃的な一言を聞いた。

現役復帰とかそういうことを一切聞いていなかったが、なにか条件次第で女子プロとして現役復帰するんだとなぜかとても安心した。



だが、条件と言った後に俺の方をじっと見ていた。

それに釣られて桔梗も俺の方を見ていた。




条件とは俺に関することなのか?



だとしたら野球をもう一度やるとはそういうことだろう。

俺が野球をやることで現役復帰するなら俺は野球をまたやってもいいと思った。



姉のプレーする姿は弟の俺が1番誰よりもファンだったからだ。



その姿をまた見れるなら俺がまた野球をするくらいなんて造作もない事だった。



それくらい俺は姉のことが好きな超がつくほどのシスコンなんだろうなと自分自身が情けなくなってきた。




「桔梗、ごめんね。色々と話してあげたいけど、今からこの子を連れていかないと行けないの。」




そう言うと桔梗はちょっと悲しそうな顔をしていた。


姉に見えないように俺の方を見たが、一瞬鬼の形相だったような気がした。本当に気がしただけか?




「ということで、りゅー。今からちょっと行かなきゃならない所あるから行くよ!」



そう言うと俺の返事などお構い無しにド派手なスポーツカーの助手席に座らされた。




「それじゃ、桔梗!また時間ある時に練習見てあげるからまた今度ね!」



「光さん!絶対ですよ!? 約束守ってくれなかったら家まで押しかけますよー!?」




さりげなくやばい事を言っていたが、姉はちゃんと聞いていたのか満面の笑みで桔梗に向かって手を振っていた。



「それじゃ桔梗ちゃん、練習頑張ってね。」



「頑張る!龍もまたあした学校でね!」



超ご機嫌なのであろう。

俺に向かっても満面の笑みでお別れを言ってくれた。

それをみて少しは肩の荷が降りた気がした。野球を辞めてしまって何か言いたいことがあった桔梗も俺にはなにも言わずに我慢してくれていた。


姉のおかげだが、久しぶりに笑顔を見れて良かったと本心でそう思った。



お別れを言うと姉は何も言わずに車を走らせて、どこに行くかも何も教えてくれなかった。




「姉ちゃん、流石に今どこに行ってるか教えてくれてもよくない?」



「うるさい!男の癖にあーだこーだ言わない。」




これは俺が悪いのであろうか?

流石に何も言わない姉の方が悪いのではないだろうか?



俺は考えるのをやめた。

こういうことは初めてではなかった。

というよりも俺が歳を重ねて、大きくなっていくうちにそういう要求は増えていった。



大なり小なりいろいろとあったが、この有無を言わせない感じは絶対にやばい事が起こる。




俺は姉の甲子園の試合を見ていた頃から、人の雰囲気を感じることが出来た。

俺はスポーツをする選手の持つ独特な雰囲気が分かった。

それは色でわかるという訳では無く、俺の頭の中だけの一瞬駆け巡る直感。

これを説明するのは今はまだ無理なのかもしれない。




「りゅー。着いたよー。」




『おいおい。流石にここはやばくないか?』




着いたのは地元福岡で有名な女子校の箱崎白星はこざきはくせい女子高校。



一体この後俺はどうなるのであろうか。




1歩も歩を進めたくなかったが、姉が歩く道の後ろを周りの女子生徒の突き刺さる視線をどうにかやり過ごしながら前に進むしか無かった。





そして、着いた先には明らかに立派な扉の前だった。




ガチャ。




覚悟を決めたが、現実は小さくなって姉の後ろについて行くのがやっとだった。





ー後書きー


姉の光の高校時代の小説もありますので、そちらを読んでからこちらの小説を読んでもらえると、更に楽しめると思うので、お暇がありましたらよろしくお願いします!


野球少女は天才と呼ばれた


というタイトルで投稿させていただきてます!

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