元天才選手の俺が同級生の女子野球のコーチに！

第2話 いつもの日常！

「今日の天気は晴れ時々曇りになるでしょう。最高気温は…。」

今日は3月10日。

いつものように朝ごはんを食べ、制服に着替え、半分以上頭の中に入ってこないテレビを見ながらソファーで寛いでいた。

「おーい。龍！早く学校行くぞ！」

俺のことを朝彼女のように迎えに来る親友の大迫蓮司（おおさこれんじ）。

小学校時代に一緒に野球をやっていたが中学になるとあっさりと野球を辞めて、今はサッカー部でキーパーとしてレギュラーとして活躍していた。

「はいはい。それじゃ行こうか。」

登校してる途中に、あんまり会いたくない人とばったり出会ってしまった。

「あ、龍。おはよ。」

俺の顔を見るとあっさりと挨拶をして、足早にその場を立ち去ろうとしていた。

「おーい。桔梗さーん。お前、俺のことが見えないのか！」

「………。それじゃ。」

彼女は俺と蓮司2人の共通の幼なじみの橘桔梗（たちばなききょう）。

彼女も小学生の時に同じチームで一緒に野球をやった。

「桔梗ちゃん。相変わらず蓮司に対しては厳しいというか冷たいというか…。」

「桔梗は照れ隠ししてるんだぜ？好きな人に素直になれない的なやつ？」

「蓮司勝手な事言わないで。そして、龍いつまでちゃん呼びするの？ いい加減恥ずかしいからやめてって…。」

「桔梗ちゃん、少し背が伸びた？170位にはなったんかな？」

「また人の話を聞いてない…。171になったよ。」

桔梗だけが現在も野球を続けていた。

姉が甲子園に出て、プロ野球に入り、それをテレビで見た野球が好きだった女の子達が姉に憧れ野球を始めた。

それにより、空前の女子野球ブームが訪れていた。

幼なじみの桔梗はよく俺の家に遊び来ていた。

それは半分憧れの姉に会えるからというかなり現金な理由であった。

姉がオフシーズンの暇な時は俺と桔梗と蓮司の3人はよく姉に練習を見てもらい、小学生に教えるとは思えないくらい厳しい練習をさせられていた。

「龍。光さんは帰ってこないの？」

「帰って来てないなぁ。姉ちゃんが毎日家にいたら俺が家から出て行かないといけなくなるかも。」

桔梗はあからさまに残念そうな顔をしていたが、それについては触れないようにした。

「まぁまぁ。桔梗も龍もこんな所で話しても仕方ないし、とりあえず学校に行こうぜ？」

蓮司はいいムードメーカーだ。

それは小さい時から今まで一切変わらなかった。

小学生の時もキャプテンとしてチームをまとめ上げ、サッカー部でも3年生達から満場一致でキャプテンに任命されていた。

学校に行く途中俺たちは他愛も無い話をしながら、その仲は昔から変わらないように見えた。

少なくとも俺と蓮司は相変わらず仲のいいままだった。

蓮司と桔梗は中学に入った時に、あっさりと野球を辞めた蓮司に対してかなり怒った様子だった。

蓮司は持ち前の明るさでその場を乗り切っていたが、基本的に大人しい桔梗が、あの時は何であんなに怒ったんだろうと思うくらいにすごく怒っていたのをよく覚えている。

3ヶ月前に野球を辞めた俺に対しても本当は文句の一つも言いたいのだろうが、桔梗はその事に一切触れることは無かった。

野球が好きな人で知らない人がいないような姉の背中に追いつくために俺はここまで努力してきたと自分自身で思っていた。

だが、去年引退会見をしていた姉を見た時に何かすっと肩の荷が降りたような気がした。

俺はこれまでとてつもない血の滲むような努力をしてきた。それが辛くて逃げ出す口実だと言われればそうなのかもしれない。

だが、野球を辞めたことを姉に言うのが1番気が重かった。

野球を辞めたことを姉に伝えると、やっぱり悲しそうな顔をした。

だが、いつものような笑顔で龍が決めたことならそれでいいと言ってくれた。

しかし、野球を辞めても野球の練習だけはやめることは許されなかった。

俺はその言いつけを守り、野球を辞めたのに練習だけは毎日のようにやっていた。

内容は姉がプロ野球の時に培った練習方法を1冊のノートにまとめて俺に渡してきた。

毎日毎日投手用の練習と野手用の練習をこなした。

それをどう効率化しても3時間半は間違いなくかかった。それも休みなくヘロヘロになりながら無理に無理を重ねても3時間半かかった。

帰ってきて先に投手用練習をこなして、そこから食事を取り休憩した後に野手用の練習をこなした。

どっちみち4時間はかかる練習だったので、2時間ずつに分けてトレーニングをした。

朝から昨日のトレーニングのことを思い出し、今日のトレーニングの内容を思い出してテンションが下がってしまった。

「蓮司、龍。またね。」

桔梗は学校に着くと自分の教室にそそくさと行ってしまった。

「なぁ、龍。みんなから言われると思うけどお前野球もうやらないのか？」

「野球かぁ…。やらないとは言わないけど今はやろうは思わんね。」

「そうかそうか！ならサッカーやらないか？お前、身体能力凄いしサッカーでもすげぇと思うぞ！」

聞きづらいことを聞いても、その返事で嫌な気持ちが吹っ飛ぶような返答をしてきた。

その気遣いに有り難さを感じるよりも、こいつの口の上手さにただただ感服した。

その日もいつも通りの学校だった。

特に変わったことも無く、平凡な一日を過ごしていた。

だが、この平凡な日常はある人物に粉々に壊されることになった。