うさぎ
ゴミ箱
夏って凄く嫌い。
ゴッ、グヂャと鈍い音がして私は彼女に声をかけた。
「何をしているの?」
「ああ、あそこに小学校があるだろ。そこの兎だよ。かわいそうだろ。あんな狭い檻の中に閉じ込められてちゃ。だから殺してあげたんだよ。」
返り血を浴びながら、嬉しそうに笑っていた。
頭が無くなった兎は、大きな岩の上に静かに横たわっていた。ドクドクとまだ赤黒い血が流れ続けている。
そして彼女は、左手に持っていたハサミで首の無い兎だったものをぶっ刺した。ゴリュ、グチャと鈍い音がして、更に赤黒い血が流れる。
彼女の頬に血飛沫がかかる。
ブレザーから見える白いワイシャツは赤く染まり、ハサミからぽたぽたと血が垂れる。
気が済んだように彼女はハサミを放り投げ、背伸びをした。転がっていた兎の頭を踏みつけながら鞄を取りにそこを離れる。
私は現実離れしたその光景をただ見つめていた。
色素の抜けた茶色の髪の毛と小麦色の肌が太陽の光に照らされてきらきら輝いていた。
廃墟のような公園に人は誰も来ず、草木は自由に生え茂っている。彼女には似合わない堅苦しい制服にどす黒い赤が歪に映えている。
鞄を肩に背負い私の目の前に立つ。
数秒間、私達はただお互いを見つめ合っていた。
そして私は口を開いた。
「ほっぺたについてるよ。」
「ふふっ、アイスでも食べて帰ろうか。」
そう言いながら制服の裾で血を拭う。
「そんな姿じゃ怪しまれるでしょ。」
鞄に入っていた体操服を渡す。
「ありがとう」
そう言うと彼女は受け取った体操服に着替え
始めた。
彼女は少し変わっている。教室の花瓶に添えてあった花を学校のトイレに流して詰まらせていたし、体育館裏でよく虫を探して踏みつけていた。それに、隣のクラスの吉沢さんの飼い猫を殺したのも彼女だろう。あの鞄に血のついた首輪が入っているのを、私は知っている。
でも、でも、そんなことどうでもよかった。
私は彼女のことが好きだった。この腐った世界で、たった1人彼女だけが眩い輝きを放っていた。先生も、親も、クラスの友人でさえも。私は恐ろしくて仕方がないのだ。未来も過去も全てどうでもいいと思うほどに私は、彼女に魅了されていた。
だから、だから、私は。
彼女に、美しく純粋無垢な彼女に、
どうしようもなく、殺されたかった。
原型を留めないほどぐちゃぐちゃに。私を私として形成しているものなど何も無かったように、美しく残忍に殺して欲しい。
汚い他人に蝕まれる前に、早く、はやく
誰でもない彼女の手で。
「行こ。」
いつの間にか着替え終わっていた彼女は、呆然と立ち尽くす私をただ見つめて笑っていた。
「ああ、そうだね。行こっか。」
きっと彼女は知っているのだろう。
全部、全部
私が貴方を好きなことも。殺されたいと願ってることも。
全部見透かして、ただ笑っている。
陽炎が揺らいで夏の暑さに目が竦む。耳を塞いだって聞こえてくる蝉の鳴く声が、煩わしくて仕方がない。
嗚呼、嫌いだよ、こんな世界。
私は大っ嫌いなんだ。
うさぎ ゴミ箱 @kanipaso
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