終焉
私は家に帰った。灯と一緒に住む家ではなく呉橋家の本家に。
門では子供が落ち葉掃除をしていた。もう、桜の葉が落ちる時期か。
「三代目、灯様おかえりなさい。」
私たちに気づくとその子は私たちを自分の家へ通す。見た感じ、新入りだ。それなのに私たちをちゃんと識別できるのは念入りにそういった教育を受けてるからだろう。
「皆様、聖羅三代目と灯様のお帰りです!」
子供がそう言うと一人の青年が出てくる。
「お帰りなさいませ。三代目。」
「ええ。幹人、お祖母様はいらっしゃる?」
「はい。いらっしゃいます。用事ですか?」
「ええ。会いたいから会いに行ける時間を伺っておいて」
「承知しました。荷物運びましょうか?」
「いいわ。自分でするから。下がって大丈夫」
「承知致しました」
そう言うと青年は私たちに一礼すると、どっかに行く。多分お祖母様の部屋だ。
「兄様部屋に行きましょうか」
「そうだな。」
私は自分の部屋に行く。相変わらず中は二十畳のだだっ広い部屋。私は荷物を下ろす。この部屋での生活は未だに慣れない。私は箪笥から着物を出すとそれに着替える。久しぶりで時間がかかったが何とか着れた。その後本を読んでいると、私を呼ぶ声が聞こえる。
「何?」
「二代目がお呼びです。」
「わかった。今行くわ。」
呼ばれた部屋に通されると母と祖母が居た。
「お久しぶりです。お祖母様。お母様。」
「久しぶり。
「よく帰ってきたね。莉々」
その名前を私は久しぶりに聞いたな。三代目呉橋聖羅は私の肩書きだ。本当の名前は莉々だ。苗字はなかった。
「今日はなんの報告があるんだい?」
私は自分の本を出す。
「もしかして」
「はい、百の物語を書き終えました。」
「お疲れ様。どのくらいかかったのかしらね」
「六十四年と五ヶ月と二日です。」
「ああ、あなたが儀式をしてからそんなに経つのね。人の時の流れは分からないわね。」
「蠱毒は完成した?」
「いや、これからです。もう殺し合ってるヤツらもいますが、未だに立ち直れない人もいるみたいです。」
「まぁ、そんなもんか。私の時も二十年かかったしな。」
自分の集めた人達で殺し合わせ最後に残ったヤツを蠱毒と見立てる。そいつを殺して自分を守ってるくれるように纏わせる。そこまでがうちのしきたりだ。そうしないと私は一生成長出来ない。母も祖母も一緒だ。私たち一族は永遠の命を持つが永遠の命が欲しいわけじゃない。
「分かりました。引き続き頑張りなさい蠱毒が出来たらまた、集まりましょう」
「はい。…あと、お祖母様の時に逃げ出した使用人の子供を発見しました。」
「それがどうしたんです?」
「……いえ、一応お知らせしといただけです。」
「分かりました。下がりなさい」
私は部屋から出ると、自分の部屋には行かず灯の為に貸した部屋に行く。
「ああ、聖羅。お義母さん達との話は終わったのかい?」
「ええ。後は蠱毒が完成すれば兄様と正式に婚約ができるわ」
「二人の時くらい名前で呼んでよ。莉々」
「ごめんなさい。いつもの癖で。灯」
そうしないと本当は私が年上でも灯がロリコンになってしまう。
「ふふ、いいよ。」
彼は私と違って人間だ。人間の命は長くは持たない。だから、速く蠱毒が完成してもらわないとこの人と結べないままになってしまう。
「不安?」
「ちょっとね。」
「大丈夫。今朝確認したら十人減ってたよ。」
一か月前は一人、三週間前も一人、二週間前は五人、先週は七人。死亡者の数は点でバラバラだ。でも、
「あと半分?」
「そ。だから、意外と短いかもよ。」
「そうだといいな。」
灯は私の事を受け入れてくれた。出会ったのはもちろん彼の高校に契約を結びに行った時だ。まさか、告白されると思わなかった。九十九人の殺戮の後、残った一人の呪いを纏わないと成人できない自分。人間の灯からしたら辛いだろうに、私のそばにいてくれる。その理由は多分お互い話好きだからだ。
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