・小人の靴屋

呉橋さんとの話が終わり数日がすぎた。恭画君と連絡が取れていない。あの子は日本最高峰の美術大学を狙ってるんだ私が邪魔をできない。

「美緒帰ろ。」

ユミはそう言って私の肩を叩く。

「いいよ。帰ろ。」

ユミはスポーツ推薦で、もう大学が決まっているのだ。

「へぇ、馬場くんと同じ大学行かないんだ?」

「わ、私は無理だよ。あそこは選ばれし天才しか行けないとこだよ。」

「ふーん。てか、気になってたんだけど馬場くんのどこが良かったの。」

急なことにびっくりした。確かに言ったことは無かったけど。でも、なんかユミは気まずくて本題に切り出せずにいると言った感じがする。まぁ、別に話してもいいけど。

「え、っと。絵かな」

「そういう話じゃなくて」

「分かってるよ。私は彼の絵に恋をしたの。ほんとよ。」

あの日、私はコンクールに落ちた。佳作すら残らなかった。せめてどんなやつが優勝したのか拝んでやろうと美術館に見に行った。これは負けたな。と思った。どれも素晴らしかった。でも、銀賞の彼の絵が一番好きだった。コンクールのテーマは「猫」しかし、そこに映っていたのは多分制服のスラックスを履いた男の子の膝から下とその横にお座りしているゴールデンレトリバーだった。猫なんて居ないじゃないか。そう思ったが、犬の目には車道を優雅に歩くハチワレ猫が映っていた。その犬の目はどうしようもなく綺麗で人が引き込まれるようになっていた。どうしてこれが金賞じゃないんだろう。申し訳ないけど金賞の人の絵はありきたりだとおもってしまった。銀賞の彼が高校生なのは部活に入って会って初めて知ったのだ。

「へぇ。なんか素敵ね。私も見てみたいその絵」

「頼んだら見せてくれるんじゃない?」

「どうかな。あ、話変わるんだけど、相良蒼って知ってる?」

顔を赤くしてユミは言う。多分これが本題だったのかもしれない。心のどこかにあったつっかえが外れたそんな安心そうな顔をその後するのだから。

「え、ユミの部活の子かなんか?」

そう言うとどんどんユミの顔は暗くなる。そして、今にも泣きそうなそんな顔になる。

「ど、どうしたの?」

「ねぇ、そういえば最近呉橋さんとは話さないの?」

「え、うん。まぁ。」

「あの子と話さないで。あの子はヤバい子だよ」

「そう?普通だけど思ったけど」

「私ね。その蒼って子が、呉橋さんについて行くのを見たの。で、呉橋さんの家で二人で行ったみたい。その二人の組み合わせがあまりに見た事無さすぎて、悪いけど跡をつけて家に着いたあとは茂みに隠れてた。そしたら、蒼は呉橋さんに出されたなんかの紙を書いたら消えたの。姿が物理的に。」

あまりに真剣に言う。もしかしたら、頭がやられてしまったのかもしれない。でも、まじ具合や、彼女がそんな子では無いことは知っている。本当なんだ。有り得ないと頭でわかっていながらそうだという考えに行き着く。

「へ、へぇ。で、その蒼って子はどんな子なの?」

「蒼は私たちの親友だよ。」

「え、」

その日以降。呉橋さんは学校で見なくなった。

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「そうね。そういえば、そんなんだったかしら。でも、それを言ってくれたのはずっと旦那だと思ってた。ユミに言われるまでね。ありがとう忘れてしまった親友を思い出させてくれて。」

そうか、その人の将来に関わるようなそう言った重要なセリフは残っているのか珍しい。その埋め合わせのために身近な当時彼氏、今旦那のセリフとして宮野木美緒の中に残ってるのか。

「いいえ。そういえば美大は受かったの?」

「落ちちゃった。第一はね。なんとか第二は入れたよ。でも、実技中とかどうしてもユミと話し合って調べたあなたの事で頭いっぱいでどうしても本気出せなかった。」

「そう。何を調べたの?」

「あなたが何年もループして中高生をしている事。あの契約書を書くと契約者は消える事かな。」

「情報がほとんどないのにたいした成果だわ。ゼロからそこまで知れれば上出来じゃない?」

「そりゃ、志望校捨ててその後も何年もユミと二人で調べてたんだから。」

「そう。あと、あなたの娘の話もしとくわね。」

私はそう言うと宮野木彩の話をした。

「そう。私の話を聞いた後に聞くと結局私は変われてないわね。娘にそんな思いをさせてしまって」

なにをそんなに思いつめることがあるのだろうか。自分の娘の悪行だ。この人は人を雑に育てない。悪い環境に自ら飛び入った宮野木彩が悪いのに。

「しかし、傑作よね。白地に黒字で青春しか書いてないポスターなんて」

「ああ、あれを描いたのってそういう事だったの。あれは困って旦那に相談したらそうしなさい君は自分の為に時間を使いなさい。そう言われたの」

ド正論

「じゃぁ、最後に質問してもいいかしら。」

「えぇ、何?」

「寺田由美子って誰?」




「ねぇ、寺田由美子って誰?」

彼女のその言葉を聞いて私は笑う。

「ああ、なんでもないわ。でも、最後に教えてあげる。あなたと契約できないのは一度破棄してしまったからよ。一度も契約してない人なら誰でも出来るわ。学生じゃなくてもね。」

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