8話
朝早くに音楽ユニット“キミガタメ”の『ノワール』という曲が鳴り響く。細く綺麗なヴァイオリンの音に元気なパーカスの音がミスマッチで私の好きな曲のひとつだ。そして、曲は私の目覚ましに最適な五月蝿さだ。ボーカルの七海優が歌い出したところでスマホの画面をタップして目覚ましを止めて起きる。スマホの時計を見るといつも通り5:30だった。私は起き上がると朝の支度を始める。ちなみにキミガタメはギターの桜田君推しだ。
「おはよう。」
私が起きて一時間後に旦那が起きてくる。
「おはよう。」
私はそう返す。二人でご飯を食べる。
「今日は講義しに行くんだっけ?」
「うん。母校のね。」
「わかった。懐かしいな。知ってる教授いたらよろしく言っといて」
旦那と私は大学で出会った。たまたまとってる講義が一緒だったりサークルが一緒だったりでね。
「行ってきます。」
旦那に送り出され私は久しぶりに東京方面への電車に乗る。
講堂に立つのははじめてでは無いが、母校のははじめてだった。
「はじめまして東由美子と申します。今日は……」
私の講義は約二時間。何とか私は計画通りに終えることが出来た。退散しようとドアに手をかけると
「あ、すいません今日の件に関して質問いいですか?」
まて、今講義が終わったばかりだぞ。速すぎやしないか?普通の生徒は友達に話しかけたりスマホをいじるのでは無いのか。私は質問されるのが嫌だから早めに消えるのだが、せっかく好奇心を持ってる子には申し訳ない。
「わかったわ。少し場所を移しましょうか。」
私は大学付近にあるカフェに来た。
「そういえば勝手に出てきちゃったけど講義は大丈夫なの?」
「ああ。今日はこれ以外ないんで大丈夫です。」
「そう。」
「あ、俺は呉橋灯っていいます。」
私はその名前を聞いてひとつの考えしか出来なくなった。彼の質問にはちゃんと返していくが全くどんな会話をしたか覚えてない。
「質問は以上です。ありがとうございました。」
「ねぇ」
席を立とうとしている彼に私は呼びかける。
「呉橋君は妹いる?」
「どうしたんですか急に」
「いや、気になってね。」
「……いますよ。」
やっぱりだ。あいつの…呉橋聖羅の兄貴だ。
「ねぇ。あなたの妹は人を消すことをする?」
すると、彼は急に笑い出す。
「何言ってんすか。そんなわけないじゃないですか。冗談ですか?面白くないっすよ。」
「その割に笑ってるじゃない。」
「いや、すいません。少し面白くて。それは、他人の気を引きたいからですか?なら、やめた方がいいですよ。あなた評判悪いから。」
そう言ってネットニュースのまとめのようなものを私に見せる。私に関してのものだ。私が親友が消えた話の事情を聞くため聞き回っていたのを誰かが見つけて書いたようだ。
「あ。嘘ついちゃった。妹と嘘をつかない約束したのにな。」
「?」
「本当はそんな訳あります。でも、それを誰が信じると思います?」
私は顔を青ざめた。こいつは本物だ。
「あ、でも屁理屈こねるのはいいと言われてるから頑張ればよかったなぁ。あんまり妹との約束破りたくないんだよな。」
「信じる人は居るよ。私の旦那。」
「ああ、
「そうよ。今電話してやる。」
「ご自由に」
携帯を開き彼に電話をかける。
「ヨシくん。」
「どうしたの?」
「ねぇ、実は例の親友の……」
「ねぇ、もうその話やめない?」
「え。」
「これから商談なの。そんな時まで冗談付き合ってられない。」
私はニヤニヤと笑う呉橋を横目に電話を切る。旦那は何か言ってた気がするけど聞こえなかった。私は絶望した。どうして…唯一。唯一信じてくれてると思ったのに。美緒と違ってひとつの疑いもなく受け入れてくれたと思ったのに。
「ま。それが現実だよ。そういえば、苗字変わったんだね寺田由美子さん。アズマってどう書くの?書いてみてよ」
私は教えたところでどうにも思わないので、書いてやった。東由美子と。
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