7話
「寺田さんこれお願い出来る?」
「ユミちゃん、これお願い!」
私は昔からお節介焼きだ。
「いいよ。」
と、直ぐに引き受けてしまう。幼馴染みを見捨てることが出来ないでいた。朝、教室の鍵を職員室に取りに行くと鍵はいつもの三年B組のテープの所には無かった。教室に向かうと鍵は空いていた。そこには呉橋さんと寝ているユミがいた。
「あら、おはよう」
急に呉橋さんに呼ばれ、ドキッとする。
「お、おはようございます」
私は荷物を置くとユミの前に行く。ユミはやり途中になってるままの今日までの課題を枕に寝ていた。頭いっぱいに詰め込みすぎだ。元々要領が悪いのは自分でも知ってるはずなのに。私はため息を吐きながらユミが起きないように課題をゆっくり引き抜く。自分のノートを持ってきてそれを書き写す。
「優しいのね」
呉橋さんは私に話しかける。別に私は優しくなんかない。他人だったらこんなことしてない。
「この子がこういう子なのは知ってるから支えたくなるの。」
「そう。ねぇ、美術部の展示にあった『秘密の花園』を描いたのはあなた?」
「え、そうだけど。」
美術部の展示とは、県立美術館の公立高校美術部展に飾った物を渡り廊下に展示しているそれの事だ。私はアクリル絵の具を使って童話の秘密の花園を題材にした絵を書いたのだ。多分それのことだろう。
「私あれとても好きだと思ったの。」
「そう?それは嬉しい。」
「私はそんな絵のあなたを書きたいと思ったの。」
今文法がおかしい気がした。私の絵のことについて書きたいと言いたかったのかもしれない。確かに呉橋さんは読感文とか結構褒められていた気がする。文章を書くのが好きなのだろう。納得出来てしまう。
「い…」
いいよと言おうとしたところで教室のドアが開き
「おはよ!」
と、蒼が入ってくる。
「おはよう。」
「じゃあ、この話はまたの機会にしましょう。」
そう言うと呉橋さんは私たちから離れる。
「あれ、美緒って呉橋さんと仲良かったっけ?」
「いや、今日はじめて話した。」
「ふーん。てか、由美子またやってるの。」
「うん。」
「美緒も由美子の自業自得なんだからやらなきゃいいのに。」
蒼は少し家に事情があり、弟の面倒をほとんど一人で見ていた長女だ。責任感が強くこだわりも強い。だから、ユミと違って自分で出来る仕事しかしないのだ。
「でも、ほっとけなくて。」
「はぁ、美緒がそれでいいならいいけど、私は心配だよ。銀賞なのもそこだよ。」
痛いところをつかれる。私はどう頑張っても絵画コンクールで銀賞どまりなのだ。確かに技量がたりないのかもしれない。でも、性格の悪い私は時々、金賞の子よりも私の絵がすごいと思ってしまうことがある。だから、悔しいしむしゃくしゃする時がある。蒼はよく私たちを冷静に分析する。親身になって一緒に寄り添ってくれるユミとは真逆のタイプだ。
「どうしても縁の下の力持ちとか小人の靴屋の小人みたいなことをやってるから個性を出せないんだよ。そろそろ高校最後の作品完成間近なんでしょ?もう少し自分勝手に自分のために脳を働かせてもいいんじゃない?」
といわれる。
「それは蒼も同じだよ。」
と咄嗟に返す。でも、自分勝手か。私は人生最大の自分勝手が進路だった。私は絵が好きで美大に行きたい。英語は得意だけど外国語学科に行きたくない。それだけだった。あまり欲を言わない私だったのでそれを見て両親は驚いてもいたし関心もしていた。うちの娘はちゃんとわがままなんだと。
「じゃぁ、今日の学校サボりたい」
「それはだめだろ!」
「あはは。冗談だよ。」
でも、大きな選択を自分で意志を持ってできたんだ。
「でも、ありがとう蒼。蒼のおかげで色々考えられた。」
「そりゃよかった。」
「だから、何かあったら私を頼って。」
そういう私に彼女は悲しげな顔をした。もしかしたら、まだ他人のことを考えてると思われてるのかもしれない。これは私の単純な気持ちなんだけどな。
わたしはだから、自分の意思を出して呉橋さんの誘いを断わった。私は恭画君の言葉に救われた。
「そう。残念だわ。でも、しょうがないわね。」
そう言って彼女は私の元を去った。
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