・裸の王様
次の日母に貰ったポスターは白紙で黒字の「青春」とゴシック体のフォントで書いたものだった。
「何これ」
「うーん。こういうのもいいかなと思って。シンプルってのも大事よ。」
と苦笑気味の母はいう。
「明日提出なのにこれじゃ採用されないわ!」
そしたら、本気で父にやめろと言われる。もうダメだ。…父?そうだ!
私は母と少し話した後にすぐに家に帰った。そして、父のサインを右上に描いた。父のサインを考えたのは母だが、抽選でサインプレゼントとかのサインを描いたのは私だ。慣れてるとかじゃない。
学校に行くとすぐさま美紀に絵を渡す。
「え、これって…」
「いやね、描いてたらお父さんがこの方がいいんじゃないかって口出してきて最終的にはお父さんが仕上げちゃったの。」
「ふーん。私にはわかんないけど多分すごい絵なんでしょうね。いいよ。ありがとう」
その言葉を私は待っていた。父の絵だから分からないけどきっとすごいってのをね。で結局私の目論見通りになった。そのままうちのポスターに使われた。そして、文化祭は普段来る地元の人や高校生以外にメディアも来た。私は美紀と文化祭を回ってると一人の男の子が
「わぁ!こんなん僕でもかけるよ!」
とあのポスターをさす。私が何度も言われてきた言葉だ。そして、私には禁句だった。自分でもかけるか。うるさいうるさい。じゃぁ、自分でかいてみろよ!
「ちょ、そんなこと言ったらダメよ。」
と少年のそばによったのは赤羽だった。赤羽。私は一番気に入らなかった。絵で賞賛されているお前が。私は周りが自分に向けて哀れみや心配の顔を向けてるのが気にならなかった。私は一直線に赤羽の元に向かった。多分あれはあいつの弟だ。
「あ、宮野木さん…」
「私の絵がなんだって?」
「私?あれ書いたのってお父さんじゃ…」
しまった!
「いや、私のお父さんの絵って言ったの。聞き取れなかった!?」
そう言って私は怒りに任せて彼女と少年を怒った。そして、我に返ったときには先生から止めが入り、あの絵が父のだと信用されなくなった後だった。先生から解放されて家に帰ろうとすると私を見てクスッと笑う女の子がいた。ああ、私は笑いものなのか。そう思うと無性にまた怒りが湧いてきて
「何よ?何が悪い?」
とキッと彼女を睨む。
「いえ、私は一年の呉橋聖羅と言います。私は先輩のファンです。」
と私に近づき手を握る。転入生だろうか制服はうちのものでないため学年の区別がつかないが。
「はぁ」
「それで、今回のことを私は大変遺憾に思っています。だって先輩の絵柄とかけはなれてるから。」
あんな白黒の絵で私らしさとか分かるのだろうか。それに私が描いた訳では無いし
「私は実は新聞部です。で、今回のことを書きたいと思いまして」
とニコニコ笑う。ああ、こんな純粋そうなファンがいたなんて。私はニコニコ笑いながらいいわよと言った。図書室に場所を移し替え話す。渡り廊下には運動部がいた。さっきまで文化祭でどんちゃん騒ぎだった場所と思えないくらい日常だ。図書室で呉橋さんの言う質問に応答していく。
「今回は取材を受けて下さりありがとうございます。最後にこれにサインよろしいでしょうか」
多分私の絵の使用していいかとかの確認だろうと思いつつ目を通す。すると、引っかかる文章があった。
「フィクションとしての使用って何?」
「ああ、前に使ったやつの文章が残ってたみたいです。」
なるほどね。じゃぁこれは関係ないのかな。そう思い私は読み進めると特に他に不具合はないようなので私はサインした。
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私は学校を後にして家に着くと、病院に向かう。
「久しぶり、宮野木さん」
私は目の前にいる老けたかつての同級生に花を持ってきた。
「ああ、やっぱり貴方なのね。」
「ふふ。旦那さん婿入りなんだ?変わった苗字だからすぐわかったわ。」
「そうよ。本当に見た目変わらないわね。ところで、この写真の空白って何があったか知ってる?」
そういって彼女は旦那とのツーショット写真を見せる。写真立ての一部を指でカツカツと言わせながら。
「さぁ?」
「じゃぁ、私は誰かの肩を持ったような不思議なポーズまま写真に写ったと言うの?」
旦那は普通に写っているが、彼女は中高生くらいの子の方を掴んだようなまま立っている。とても不思議な構図だ。いないはずなのにほんとに誰かそこにいたような。
「あなたがここに来て、写真がこんなになってるなんて、前の状況と似てるわ。それに、私が母校でもない私立のバカ高の前で恭画君といるのはおかしいわ。」
元娘の入学写真だと言うのに散々な言い草だなと思うと笑えてくる。堪えないと。
「やっぱり、1度経験した人だとダメか。普通はなんの疑問も抱かないのに。でも、あなたは寺田由美子を疑いもしないなんて不思議よね。だって普通親友が狂ったとしか思えないじゃない?自分が知るはずのないもう一人の親友がいるなんて」
「…初めはびっくりしたよ。でも、ユミが言うんだもの。本当なんだわ。」
イマドキそこまで信頼し合える親友なんているんだな。感心した。そんな漫画みたいな深い絆が二人にあったとは誤算だ。
「未だに思い出せないのに、信じるなんてすごいわね。とても異常で好きよ。貴方のこと。」
「ねぇ、ここのこの空白の子とユミの言ってるもう一人の親友を教えてくれない?そしたら、私のこと書いていいから。」
「契約を断られてから10年以上も経ってるのに自分勝手ね。」
「あなたには利益しかないじゃない。」
「いいわ。教えてあげる。でも、貴方とは契約しない。絶望しなさい。」
私はリュックから本を取りだした。
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