5話

父は有名な画家の馬場ばば 恭画きょうが。母は人気イラストレーターの宮野木みやのぎと言う芸術一家に生まれ育った。名前は宮野木みやのぎ いろって名前。彩りが入るなんて、なんて芸術家らしい名前なんだろう。絵に囲まれて育って絵が大好きなまま高校生になった。

「ねぇ、彩ちゃん今回のポスターも頼んでいい?」

そう言って目の前にいる私の親友 桑原くわばら 美紀みきはA4のコピー用紙を机の上に提示した。文化祭のポスターコンクールの用紙のようだ。そういえば実行委員だったんだっけ。

「他にやる人いないの?」

私は帰り支度をしながら質問を質問で返す。

「皆やってくれないんだよ。でも、クラスで一枚は絶対に出さないといけなくて」

「赤羽さんは?」

と、私は右斜め後ろの席にいるロングの髪の一人でスマホをいじってる女の子を見る。彼女は赤羽あかばね 弥生やよいと言う。目がつり上がっていかにも強気そうな感じの人で実際にそう。私と同じ美術部で絵もうまい。

「ええ、でも私あの子苦手でさ。お願いします!」

と美紀は言う。赤羽は友達がいない訳では無いが少ない。

「しょうがないなぁ。いいよ。」

「ホント!?ヤッター。でも、いいなぁ、彩は絵が上手くて。大学は美大行くんでしょ?」

「うん。」

「そう言えば、今日一緒に帰れる?」

「ごめんね。今日は病院行かないと」

「そっか。じゃぁね。」

そういって、私は支度を整えたカバンを持って教室を出た。

病院に行くと言っても私が病気な訳では無い。母のお見舞いだ。母は元々体が弱く何回か入院をしている。

「ママ!」

私は彼女の元へ駆け寄った。

「彩ちゃんおかえり。学校はどうだった?」

と聞かれる。

「うん!とても楽しかったよ。」

「そう」

「そうだ。ママ今度文化祭のポスター頼まれちゃったんだけど……」

そう言うと私はプリントを彼女の前に出す。

「頼んでいい?私、これから予備校なの。」

予備校なのは本当だ。嘘はついてない。私は良く絵を母に頼む。私にイラストレーションは向かない。それは父に似たのだろう。目で見てとったものは描けるがそれをデフォルトにしろと言われると難しいのだ。それに、こういう文化祭はリアルな絵より可愛い絵が好まれるし入りやすいから。

「……そう。いいわよ。彩ちゃん忙しいわよね。何時からって言ってたっけ」

「あと1時間かな。」

「それじゃ今日中には渡せないわね。いいよ。明日までには考えておくから」

「ほんと?じゃぁね。」

私はそう言うと母のいる病室を出る。すると真正面にせえたかのっぽの父がいた。

「ああ、彩来てたのか。」

私は父を睨む

「そうだけど何?」

「帰るのか?」

「だってこれから予備校だもの。」

「ああ、まだ行ってるのか。」

父は私に画家に進むなと言う。自分が画家のくせに何言ってるんだよ。それにいちいち思い出した風なのがムカつく。私はあなたの子供じゃないのかと。

「うるさい。じゃぁね。」

そう言うと私は足早に彼の横を通る。

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