第15話 ケツイ

 「おーい!カリン!トール!大丈夫かー!!」

 下からスレイヤーがカリン達を呼ぶ声が聞こえる。微かに見えるスレイヤー達の姿に2人は安堵し、急いで地上に降り駆け寄る。見る限り、3人共返り血の様な戦った形跡ば見られない。そのまま逃げてきた様だ。しかし逃げたとしても、あれだけの軍事力をもつ組織に追いかけられたのだ。カリンは心配の言葉を掛けた。

 「皆、怪我はありませんか!?」

 どこか傷付いてる箇所はないか入念に身体を見るが、少し土で汚れていること以外は全くの無傷だった。

 「あんなブリキ共に傷を付けられるほど弱くねぇよ。…それより。」

 視線が辺りを見渡し、異臭を感じるとしかめっ面を浮かべる。

 「…なんだ?このBBQ達は。」

 周りには黒焦げとなった死体が地面を埋めつくしていた。皆、苦痛と恐怖で顔が歪んでいる。

 「こいつらは我らを捕まえ、研究材料にするつもりだったそうだ。生憎、その研究とやらの情報は何一つ聞けなかったがな。」

 「ふーん…そうか。まぁ、カリンちゃんとトールが無事で良かった。帰ろうぜ。飯食った後、作戦会議だ。」

 「は…、ってちょっといいですか?」

 「んあ?」

 「その後ろの人、誰ですか?」

 先に行こうとするスレイヤーの背中に、少女がすやすやと眠っている。再びのまだ見ぬ人物の登場にカリンは動揺した。

 「あぁ、忘れてた。クルエラってんだ。情報屋やなんだがこう見えて20歳だからな。子供扱いしたらキレてくるから気をつけろよ。」

 親指で後ろを指し、クルエラの代わりに自己紹介をする。それが終わると、少女は目をこすりクマがついた目を開けた。

 「…ぅ~ん、もう、終わったの…?私、まだ眠いから…着いたら…起こし…スー…。」

 何とか要求を言い渡すが、すぐに電源が切れたようにパタンと寝てしまう姿は幼児さながらで、カリンは

(ほんとに大人なのかな?)

 と疑いながら家に戻った。

            *

 スレイヤー一行は何時ものリビングに集まっていた。これからSEEDを潰すための作戦会議が始まる為か、いつもと違い神妙な空気が流れている。

 「さてこれから、第1回SEED殲滅作戦会議を始める!!」

 「「「おー!」」」

 「……」

 「と、言う前に…まずは腹ごしらえだ!」

 「「「yeah!!!」」」

 「……」

 しかしその重い空気はすぐに反転した。作戦会議というには余りにも明るく賑やかで楽しげな雰囲気になってしまった。腹ごしらえと言うが、メニューはこれでもかと言うほど豪勢だった。大インチのテレビが置いてあるリビングの机の上には、ピザに寿司、ハンバーガーにポテトとスレイヤー達とクルエラのテンションも合間り、正にパーティー状態だ。

久しぶりのパーティー、全員が楽しんでいた。ただ1人を除いては。

 (さっきの感覚が、まだ消えない。人間が苦しむ姿が、頭を離れない。)

カリンは酷く落ち込んでいた。仕方の無いことだ。いくらその時憤怒していようと、初めての殺人を経験して食欲が湧く人間はこの世にはいない。そんなカリンにスレイヤーは歩み寄り、横に寄り添うように座った。

 「どうした。カリン。」

 「あの…さっきの感覚が、まだ消えなくて…。」

 カリンの中の鉛のようにのしかかる悩みを受け止めたスレイヤーは、優しく、柔らかく微笑んだ。

 「カリン。私を見ろ。」

 「はい?」

 誘われ、スレイヤーの顔をまじまじと見つめる。

とても綺麗だ。目の色は透き通り、バランスの良い顔のパーツは絵に描いたように完璧だ。

 「あの時、お前が殺すのを躊躇して、アイツらに捕まってたら、今私達はこんなに楽しい空気で食い物を食べれてない。

 じゃあ今、何をするべきか。また、ここに皆で集まれた事を皆で祝福することじゃないのか?」

 「で、でも!殺した時の、あの苦しそうな顔が忘れられなくて…。」

 それを聞いたスレイヤーは、これまでになく、真面目な顔でこう伝える。

 「カリン、お前は復讐の道を選んだ。もっと、もっと強くならなくちゃならない。殺したと言う感覚が無くなる程に。」

 「でも、そんな…出来ませんよ…。」

 目に涙を浮かべる。カリンは恐怖していた。今更だが、これからの旅路を思うと、今にも逃げ出したかった。

 「できるできないじゃない、やるんだ。それじゃあその力は、憎悪の力はなんの為にお前に授けられたんだ?その時、母親が殺された時の怒りを、悔しさを、憎しみを思い出せ!」

 その言葉は、これまでのカリンの価値観を大きくゆさぶった。今までこの力は、理不尽に一方的にあたえられ、忌むべきものだと思っていた。

 「あぁ、そうか。私はもう、そう運命づけられたんだ。だったら、出来ることは…

 強くなる。そう強くなること…。今よりもっともっと強くなって、あいつを八つ裂きにする!」

 「…そうだ。それがカリンの使命だ。そして私達も、強くならなければならない。今もこれからも、永遠に。…と、重苦しい空気はここまでだ。しんみりとしたのは私たちに似合わないからな。腹減ってるだろ?」

 部屋を揺るがす轟音が、カリンの腹から響き渡る。それをカリンは手で抑え何とか食い止めようとするが、無慈悲にもそれは鳴り続けた。

 「ほら、強くなるにはまず食え!話はそれからだ。」

 カリンの手のひらにピザが乗せられる。それはまだ熱く、空腹で限界なカリンはそれを無意識に口に運んだ。先端を小さな口でハムと噛むと、1口目特有の美味しさが味覚を覆う。チーズの旨み、タレの香りで更に食欲がそそられる。そのまま夢中で頬張るり、肉の食感、野菜とのバランス、何処までも伸びていくチーズの楽しさに胸を弾ませ、あっという間に平らげた。満足し、ふうと一息つく。それをスレイヤーはとても幸せそうに見ていた。視線に気づいたカリンは顔を赤らめ、サッと手の平で覆い隠す。

 「すっ、すみません!こんながっついて…。」

 自分の痴態を咄嗟に謝罪する。それを聞いたスレイヤーはカリンの頭を乱暴に掻き回し、ニカッとした笑顔でこう返す。

 「…さっきも言ったが、私達はまた無事にここに帰ってこれたんだ。これはまた皆で集まれたお祝いでもあるんだぜ?じゃんじゃん食っちゃいなよ。」

 「…はい!それじゃあ…遠慮なく!!」

 それから机の上を平にするのに、30分も掛からなかった。

           *

 スレイヤー達はそれぞれで片付けを済ませ、再びソファに集合する。ようやくの作戦会議スタートだ。

 「さて、これから本題だが、クルエラが先程位置を割り出した。クルエラ!頼んだぞ。」

 「分かってるよー。」

 クルエラはカバンに入っているタブレット端末を取り出し、ある西方の国の山岳地帯の地図を映し出す。

 「ここに奴らの研究所がある。入口は1つしかないし忍び込むのは不可能だね。それとさっき情報が入ったんだけど、この中にに新兵器が有るっていう報せが入ったんだ。そこを潰している間に盗めば、モノに出来るかもね。」

 情報の収集を頼んだのは片付けが始まった頃だ。なのにこんな短時間な情報収集にも関わらずこれ程までも確信を持ち、詳しく伝える様子に疑問を感じるのは不思議では無いだろう。

 「…すいません。どうしてそんなに詳しく知ってるんですか?まさか向こうのスパイなんじゃ…」

 疑いの目をクルエラに向ける。

 「安心して。私は世界中に『目』を張らせてるんだ。こんな感じのね。」

 するとクルエラの周囲に、緑に発光する物体が無数に浮遊し始めた。

 「言うなれば監視カメラだね。ま、変な風には使ってないから。」

 「…なぁクルエラ、入口はほんとに1つしかないのか?」

 ゲンジが口を開く。

 「間違いないね。」

 「じゃあ、やる事は決まっているな。」

 全員の顔がニヤリと笑う。ここからはもう予想が着くだろう。

 私達『ETERNAL』は、何時どんな時でもこのやり方が1番性に合っている。

 「『真正面から堂々と』。これしかない。」

 「賛成だ。」

 「我も賛同しよう。」

 「決まりですね!」

 言うまでもなく満場一致である。

 「決行はいつにする。」

 「善は急げだ。明日の朝にでも出発するぞ。それじゃ、明日に備えて就寝!」

 予定はすぐに決まり、間もなく全員がそれぞれの床に着いた。

            *

 カリンの体はふかふかの毛布に包まれていた。昨日の出来事もあり、泥のように眠っている。そしてそのまま、カリンの意識は夢の世界に陥った。


 辺り一面が真白な光景。あの時見た夢と同じだ。ならばまた、母と会えるのではないかと期待し、その時を待つ。


 『カリン!ここにいちゃダメ!早く逃げるのよ!あなたアイツに殺されるわ!目を覚まして!』


 唐突すぎてポカンとした顔で声を聞く。しかし、喜ぶべき再開の筈なのに、母と思しき人物は物凄い剣幕で畳み掛けてきた。何故だ。


 『もう時間切れ?!あぁもう!取り敢えず早く逃げて!気を付けて!』


 嵐のように伝言を残し、声が消える。そうして何も分からないまま辺りは再び暗闇に包まれ、意識を現実に引き戻した。

           *

 カリンはムクリと体を起こし、閉じようとする目をこじ開け、朝の支度を済ませる。軽く朝食を済ませ、戦いに備え愛銃を手入れする。分解し、部品をチェックし磨きながら昨晩の夢を思い出した。

 (逃げろって…どういう事なんだろう。お母さんのあの雰囲気…普通じゃない。)

 全てのチェックを終え、再び組み立てていく。

 (でも…私は逃げない。使命を果たすために強くなる。そう、決めたんだ。)

 最後の部品をカチンと填めシリンダーを回す。

 機構が正常に動くのを確認すると同時に固く、固く決意した。と後ろからふにゃふにゃとした声が聞こえてくる。

 「あぁ…みんなおきろぉ…。準備するぞぉ…。」

 「分かってらぁ…。ほら起きろアレス…。」

 「…………。」

 「あと、5分寝かせろ…。」

 「スピー…。」

 10分後、それぞれがのそのそと起床し、ダラダラと身支度を済ませる。時刻は午前四時。ここまでやる気が起きないのも無理はないが、緊張感が無いにも程がある。

 「ほら!今日は敵の本拠地に行くんですよ!気合い入れて!さぁ!」

 カリンは既に準備万端だ。腰のホルダーにリボルバーを下げ、表情は闘志に満ちている。

 それに続き、その他も次々と装備を整えていく。

 「……おいしょっと。よし!どうだお前ら!できたか!」

 スレイヤーは背中に2丁のソードオフショットガンを背負い、腰や胸に予備の弾薬を装備する。

 「既にOKだ。何時でも行けるぜ。」

 ゲンジは特に目立った装備はないが、アレスと共に変形のリハーサルをしている。

 「右に同じく。」

 トールはハンマーを持ち、いちにいちにと屈伸をしていた。

 クルエラは、

 「いいよー。」

 特になし。

 そして全員の準備が完璧に整い、皆の意思が一つになる。想いは一つだが、感情は別物だ。カリンは怒りを、スレイヤーとゲンジはワクワクを、トールは正義を感じていた。

 スレイヤーが手をかざす。

 「それじゃ、ポータルを開くぞ!パーティーの時間だ!楽しもうぜ!」

 人間大の大きさにワームホールが開いた。向こうに見える森林に向かい、ゲンジから続々とそれに入っていく。そして最後にスレイヤーがくぐり抜け、部屋には静けさだけが残った。

 

 

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