第9話 覚醒の前座

       ~ETERNAL~

 「あー腹いっぱい…。ねっむ。」

 「もう私寝るね…。」

 「「「おやすみ~。」」」

 シャーリーはもう限界らしい。かくいう私ももう襲い来る睡魔に耐えられない。ソファに横たわっている2人を覗くと既にその瞼は閉じていた。




 「カリン…カリン…。目を覚まして…。」




 遠くから声が聴こえる。どこか懐かしい声だ。

   目を開き声の主を見つけようとするが

     視界がぼやけて姿は見えない。



 「久しぶりね…。もう10年ぶりかしら…。寂しい思いをさせたわね…。」


 


 「まさか…お母さん?」




 「ごめんなさい…今は話してる時間はないの…。

まず最初に、私は、生きてる…。そして10年前私達を襲った者たちは、地獄からの者では、ない。」


 私の母と思われる女性は、そう言い残すとその姿を消そうとする。


 「ちょ…ちょっと待ってよ!どういうことなの!ねえ!お母さん!!」


そう叫ぶ頃には、既にその姿は消えていた。


           *


 「お~い、起きろーカリン。朝ごはんお前の分まで食っちまうぞ。」

 スレイヤーに頬をぺちぺち叩かれる感覚で目が覚める。

 「…おはよう…。」

 「お前うなされてたぞ?ま、昨日の今日だし、仕方ないか。」

 何かとても悲しい夢を見た気がする。

 「朝の準備が終わったら、ほかの2人を起こしてくれ。あいつら中々起きねぇからな。頼んだぞ。」

 「はい…。」

 ぼんやりとした意識の中、洗面台に向かう。

 (何だったんだろう…。さっきの夢…。)

 寝癖を直すために顔を上げる。鏡に写った顔には、涙が流れていた。


           *

 2人を起こすのにはとても労力を使った。

シャーリーは何度か揺さぶると渋々起きたが、ゲンジはかなり強めの往復ビンタを繰り返さないと起きなかった。そして隣には、見知らぬ女性が寝ていた…。

 「おはよう…」

 「おはようお姉ちゃん…。」

 「おはようございます…。」

 部屋から出てくる冴えない姿は、3人ともそっくりだった。

 「すいません。隣の人は…誰ですか?」

 白く長い髪に赤色の瞳、整った顔。誰だ…。

 「おっと、紹介し忘れてた。この子は俺の相棒のアレスだ。」

 「初めまして、アレスです。これからよろしくお願いします。」

 「ちなみに、こいつはロボットだ。」

 「凄く…喋るのが上手なんですね。」

 驚きを隠せない。

 「まぁただの照れ屋だからな。よろしく頼むわ。」

 アレスは静かに、ゲンジをどついた。

 「ゲンジさん。今日、教えてくれるんですよね。

武器の使い方。」

 彼は自信満々でこう答える。

 「あぁ、俺ぁ一応、武器と呼べるものは全て使いこなせる自信があるから、任せとけよ。」

 「お願いします。」

 キッチンからソーセージの香ばしい匂いが漂ってくる。

 「おらーお前らー。飯できたぞー。」

 スレイヤーが持つお盆の上には、ソーセージとスクランブルエッグがのったトーストがあった。

 

       *


 「よし!それではこれから、第1回カリン特別訓練を実施する!」

 「いぇーい!」

 「お姉ちゃんがんばれー!」

 時間は昼過ぎ頃、私たちは事務所のビルの裏にある、寂れた公園にいる。

 「き、緊張してきた…。」

 武器を触るのは今日が初めてだ。とてもドキドキする。

 「早速だが、まずは武器選びだ。この中から好きなヤツを選べ。」

 ゲンジの足下には、棍棒からロケットランチャーまで多種多様の武器が並んでいた。とても迷う…。

 「う~ん…何がいいのか…。」

 「じゃあ…え~と…こいつはどうだ?」

 そうしてゴソゴソと取り出したのが、少し大きめの一丁のリボルバー。

 「こいつなら扱いも簡単だし、壊れにくい、初心者にピッタリじゃないか?反動はデケェがな。」

 「いいセンスだ。ゲンジ。」

 「どーも。」

 確かに、コレはとても手に馴染む。

 「じゃあこれでお願いします。」

 「分かった。それじゃあ、まずは撃ってみろ。小手調べだ。」

 ゲンジが指さした40m先には、1つの缶ジュースがちょこんと置いてあった。

 (落ち着け私。撃つところは、魔法と同じだ。)

 トリガーに指をかける。手に汗が滲む。心臓の音が大きい。目を絞り、狙いを定め、深呼吸し、指を引く。掌への衝撃と共にデカい銃声が鳴り響く。放たれた弾丸はそのまま直進していき、缶の方向とは見当違いの方向へと飛んで行った。

 「……。」

 「まぁ最初はそんなもんだ。これから、練習していけばいい。」

 「…はい。」

 そう言うとゲンジは、くるっと反対を向き、

 「スレイヤー!これから俺は狩りに行く。カリンの事頼んだぞ!シャーリーも行くか?」

 「うん!」

 「へいへい。」

 そのまま何処かに行ってしまった。

(才能無いのかなぁ…。)「才能無いのかなぁ…。」

 「…とでも思っていそうな顔してるね?」

 「わぁ!びっくりした…。」

 背後にスレイヤーが仁王立ちしていた。

 「だって、あんな所に普通飛ばさないし…。」

 「あ~あ~、最初からそんな当たる訳ないじゃんか。地道に行こうぜ。地道に。」

 「は~い…」

           *

 「よし!今日の日課終わり!」

 「ふい~…疲れた~…」

 夕暮れの道を歩く3人、その姿はまるで家族のようだ。

 「そうだ。アイスでも食うか。」

 「あ!賛成、賛成!早く行こ!」

 「…」

 シャーリーがダッと走り出す。しかしその駆け出しは、見知らぬ男に阻まれた。

 「おっと…危ないよ。」

 低く穏やかな声で、男は言う。その姿はなんら他の一般人と大差はない。

 「初めまして、私はカルム。いきなりですまないが、この子を私に渡してくれないだろうか?」

 「…ぷっ。何を言い出すかと思えば、ただの変態ロリコン野郎じゃえねえか。とっとと帰んな。」

 「そうですか…。では、仕方ないですね。」

 さっと手を掲げる。

 「気をつけろ…。何か来るぞ…。」

 「う、うん…。」

 手が紫に輝く。すると2人の動きが止まった。

 (なるほど…。いわゆる超能力と言うやつか。)

 「なっ…何これ?!」

 完全に無防備だ。

 「これで、何の危険もなくその子を連れて行けるわけだ。」

 「っ…!」

 シャーリーをひょいと担ぎあげる。

 「離してよ!この変態!ロリコン!」

 カルムは自身の体を浮かせ、その場から消えた。

 

 

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