第6話 無情の運命

         地獄門内

 「ふぅ、暇ですな、兄者。」

 「そうだな、弟よ。」

 「俺たちが暇なのが1番平和なんだよ阿呆共。」

 3対の頭を持った番犬が暇を持て余していた。無理もない。1000年間、自ら地獄に来るような愚か者はいないのだから。しかし、その平穏は突然破られた。3つの人影によって。

 「兄者、3人向かってきますぞ。」

 「なぬ。」

 「行くぞ。」

 3つの意識に緊張感が走る。あと30mぐらいだろうか、ケルベロスが足を止めた。

 (どうしたんですか親分。)

 (どうなさった。)

 いきなりの急停止に、左右の頭が疑問を投げかけた。

 (あいつら、ただの変人じゃねえ。これ以上近づいたら殺される。)

 その表情は、酷く脅えていた。

 (む、確かに。)

 (うわぁ、どす黒い雰囲気がプンプンしますね。)

 (あそこの岩陰に隠れるぞ。)

 そう心で会話をした後、近くにあった岩に姿を隠し、その場をやり過ごした。

           *

 「ぷッ…あのケルベロス…私たちを見て隠れたぞ…。」

 スレイヤーが必死に笑いを堪えていた。

 「お前ら姉妹揃って殺気出しすぎなんだよ。

…でも、あれはビビりすぎだな。」

 「だって、あのわんちゃんもすごいやる気だったじゃん!」

 まるでピクニックに行くような雰囲気で3人は地獄への道を歩いていた。そしてその道はやがて夜の山道のように闇に包まれ、光が戻る頃には赤い砂の海が広がる砂漠に出た。そして遠くには、その砂と同じ色をした、雲の上にそびえ立つ塔が見えた。

 「どうだ、シャーリー。」

 「この塔の上には居ないみたい。」

 「それじゃあ、どこにいるってんだい?」

 「地下だよ。この塔の10階下、そこに幽閉されてる。」

 「なるほどな。それじゃ、愛しのマイハニーを迎えに行こうかな。」

 「ちょっとキモイぞ。スレイヤー。」

 1連の会話をした後、周りの砂を巻き上げながら、光速でそのおどろおどろしい雰囲気を放つ塔に向かった。

           *

 「おい起きろ。父上がいらっしゃった。」

 眠りから目を覚ますと、そこには、鬼が牢の前で仁王立ちをしていた。身長は10mはある。デカい。

 「突然で申し訳ない。我の名はサタン。一応この地獄の魔王をしている。」

 その明らかに横暴そうな見た目に反して 、えらく礼儀正しかった。連れ去られたにはこの疑問が必ず浮かぶだろう。

 「何が目的なの?」  定番だ。

 するとサタンは、落ち着いた声で質問に答えた。

 「いいだろう。君には、知る権利がある。

 率直に言おう。君の、その魔法が欲しい。」

 ある程度予想はできていた。しかし、何のために。

 「見させてもらったよ。君の、地鳴らしを起こすほどの魔法を。 あれさえあれば

      人間を滅ぼすことが出来る。」

 これは流石に予想出来なかった。あまりのショックに私は言葉を失っていた。

 「最近の人間の行為は目に余る。

差別だとか、戦争だとか。それに、君も被害者だ。

 復讐したいとは、思わんかね。」

 そうだ。私は周りの人間に、迫害を受け続けた。

 でも、

 「思わない。私の復讐の対象は、人間じゃない。

 私の両親を殺した、お前ら、化け物だ。

        いつか、殺してやる、

         私の手で!」

 短いが自分のありったけの気持ちを魔王にぶつけた。するとサタンは残念そうに溜め息をつき、

 「残念だよ。それじゃあ、任せたよ。ベルゼ。」

 「承知しました。お父様。」

サタンはその場を去り、ベルゼは両手を私にかざした。

 「その心、我がものとし、我に服従せよ、

         ラル…」

 「しっつれーーーい!!!」

 その聞き覚えのある能天気な声とともに、豪快に石の壁が崩れる音が聞こえた。

 「スレイヤーさん!」

 「待たせたな。カリンちゃん。もう安心していいぜ。さて、と。」

 スレイヤーがゆっくりとベルゼの方を振り返る。

 そしてベルゼは、驚愕の顔をしてこう言った。

 

   「お、お姉ちゃん?!」

 

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