第26話 中央突破
なんだこの加速力は・・・3歳のナショナルダービーの時にも匹敵するスピードでグイグイと前の2頭に迫って行く。しかし、位置取りは完全に真後ろであり、内にっても外に行ってもロスになってしまう。何よりハヤテオウの勢いを失わせたらそこでゲームオーバーだ。駿馬はたった1つの方法に賭けることに決めた。
「(ハヤテ、あそこに突っ込む、いや突き抜けるぞ)」
「(おう!)」
ハヤテオウも駿馬の指示に口答えをしてこなかった。勝負に集中しているのだ。二頭は壮絶な叩き合いになるが、ハヤテオウに幸運だったのはジョッキーのステッキを持つ手が逆だったこと。そのため併せ馬の状態でも1馬身ぶんだけスペースができていたのだ。
残り150、100、80、70・・・ハヤテオウはステッキで叩いたり、手綱をしのぐことで加速するタイプではない。駿馬は信じるしかなかった。ブラックアローの小幡ジョッキーとグランドシャークの有馬ジョッキー、二人のステッキが体に当たることも覚悟で突っ込む。50、40、30・・・
「突き抜けろ、ハヤテオウ!」
3頭がほぼ並んでゴール板を駆け抜けた。それまで歓声を響かせていたスタンドのお安客もどよめいたが、ただ一人のジョッキーが右手を高く掲げた。中央の駿馬だ。
確かな感触・・・元の世界でも鼻差や首の上げ下げで勝負が決したことは何度もあった。確信が持てず、写真判定を経て確定ランプが灯るまで半信半疑だったことも。だが、今回は分かる。それぐらいハヤテオウの突き抜ける勢いが二頭を凌駕していた。
ブラックアローの小幡ジョッキーが軽くサムアップをしてきた。スマイル牧場と白金ファームの関係を考えれば、大袈裟な祝福はできないかもしれないが、ライバルに認めてもらえたことが駿馬は嬉しかった。しかし、グランドシャークの有馬芳はハヤテオウと駿馬の方を無視して、離れた位置で馬を減速させていた。
一応、写真判定になったようだが、そんなに時間がかからず電光掲示板の着順表示にハヤテオウの3番が表示され、続いて1番、13番、7番、14番と表示された。完全に減速させてから係員に促されて1位のボックスにハヤテオウを収めて、後検量に向かう。
「くっそ〜」と明らさまに悔しがる声の主が誰かは見ないでも分かる。ダッシュマイケルの秋野勝利だ。
「あのデガ馬に睨まれなければ、マイケルは失速なんてしなかったんだ」
ハヤテオウによるとダッシュマイケルはスタミナが抜群だと言っていた。そう考えるとあの失速はグランドシャークの巨体と併せ馬になったことで、走る気力を失ったことによるものなのかもしれない。
「何がデカ馬ですって。あなたがわざとシャークにステッキをぶつけようとしてきたでしょうが」
「なんだと!」
秋野に食ってかかったのはグランドシャークに騎乗していた有馬芳だった。この声、どこかで聞いたことがあるような・・・と思い巡らしながら検量室に向かう駿馬の方に、有馬騎手がツカツカと近寄ってきた。
バシッ!
突然のことで駿馬は何が起きたか分からなかった。ざわめく周囲をよそに、倒れながら見上げた駿馬の方に上から顔を覗かせてくる。そしてサメの絵柄のマスクを右手でガバッと外した。
「あ・・・牧野・・・姫子」
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