第25話 再加速

 ダイナーレディに教わったコースからブラックアローの真後ろに付けたところで第三コーナーに差しかかる。そこからブラックアローは内側の馬を邪魔しないギリギリのライン取りでインに切り込む。さすがは中央競馬で経験が豊富な人馬だ。


 ハヤテオウは少しだけ外側に膨らんでしまった。大きなロスはないものの、これだけで1馬身分ぐらいの距離ができる。ここを無理して付いていくか、足をためながら直線勝負に持ち込むか・・・。第三コーナーから第四コーナーに差しかかるところで一瞬、目の前の馬群の向こうに愛子の姿が飛び込んだ。


「(愛子さん!)」

「(あそこに突っ込めばいいんだな)」

「(お、おう!)」


 それはほんの一瞬だったが、勝利への光に見えた。2歳のハヤテオウを思い出すと、仕掛けのタイミングとしては少し早いが、このタイミングを逃したら大外に持ち出すしかなくなる。駿馬はステッキの代わりに左手でハヤテオウの首筋を軽く叩いた。ギュンっと加速する。風が痛いほどに頬を切ると感覚が研ぎ澄まされる。


 直線に向いたところで先頭を走り続けていたダッシュマイケルにグラウンドシャークがインから少し膨れる形で併せ馬に入る。小柄なダッシュマイケルと超大型のグランドシャークによる叩き合い。ただのラビットと見られたダッシュマイケルの大健闘にスタンドから驚きの声が上がった。


 しかし、直線残り300メートルのところでグランドシャークの巨体がグイッと前に出た。そこに外めからグランドシャークが追い上げ、ほとんど差がなくサンクスギフトが続く。


 さらにハヤテオウ、オヤマノタイショウ、アイドルハンター、パワフルウーマン、アラフォーチャン、そして道中はしんがりだったケンショウマネーが外からグイグイと伸びてくる。ミスダイナマイトはいっぱいになってしまった。


 ダッシュマイケルをグランドシャークが引き離し、さらにブラックアローが追い抜いていく。必死に追いながら「くっそ〜」と泣き叫ぶ秋野勝利とダッシュマイケルをサンクスギフトとハヤテオウが迫ったところで、ダッシュマイケルがいきなり外にヨレた。


「うわっ」と駿馬が声を発した時にはハヤテオウの馬体が外に流れてサンクスギフトに接触しかける。ギリギリのところでこらえたが、本来ならスピードに乗りたいタイミングでの減速は免れなかった。


 サンクスギフトが4分の3馬身ほど前に出る。残り200メートル、グランドシャークとブラックアローとの差は3馬身半ほど。これはいくらハヤテオウでも苦しい・・・自分がもっと上手く危機察知してあげたら。


「ハヤテオウ、フラワーが待ってるわよ!」


 ギェンッ!!


 えっ・・・駿馬も振り落とされそうな勢いでハヤテオウが加速する。気が付けばサンクスギフトよりも前に出ていた。






























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