第23話 スタートの罠
『ナンデモ電機ステークス』芝2000メートルのスタート時刻が来た。メインストレッチ前に設置された台にスターターがのぼり、ファンファーレが鳴り響くと歓声が響き渡った。規模こそ大きくはないが、駿馬とハヤテオウが何度も体験してきた地面を揺るがすような感覚が全身を駆け巡る。
係員たちの先導に従い、各馬順調にゲートにおさまるかと思いきや、3番のハヤテオウを含む奇数番の馬たちがゲートに収まりかけたタイミングで、一頭が暴れ出した。ダッシュマイケルだ・・・
「おい、マイケル!おとなしくしろ〜」
秋野勝利が叫んでいるが、なんか芝居くさい。
「(ハヤテ、あれわざとだよな・・・)」
「(ワザとだね)」
「(ゲート内で待ち時間が長引きそうだけど、大丈夫か?)」
「(全く・・・問題・・・ないぞ)」
強がってはいるがイライラしてきているようだ。元の世界ではデビュー戦からナショナルダービーまで、幸運にもゲート内で長く待たされる経験が無かった。ゲートチェックは何の問題もなくパスしているが、長く待たされることを想定したチェックまではしなかったのだ。
結局、散々ゲート前で暴れたので、最初に奇数の残り馬と10頭を先に入れてから最後に入れることになったようだ。迷惑なことだ・・・係員が覆面を持ってやってきた。それをダッシュマイケルに被せて視界を遮り、ゲートが見えないようにしようと近寄った瞬間、秋野ジョッキーがポンと首を叩くと、素直に進んでゲートに収まった。
その間にもハヤテオウがイライラがマックスになりかけていた。これはまずいと思った駿馬は奥の手を出した。まさしく左手のグローブをハヤテオウの鼻に持っていく。
「(フラワーの匂い・・・)」
「(そうだ。フラワーのためにもレースに集中するんだ)」
「(よし、頑張るぞ!)」
フラワースマイルを売却の運命から救うための戦いだ。そのフラワーがハヤテオウに走る力を与えてくれると言うのは感動的だが、その想いに浸っている場合ではない。スタートが秒読みになると駿馬は心を無にした。大外のケンショウマネーがゲート内におさまる。そして最後の係員がゲートの外側に外れて安全を確認する。
バンッ!
ゲートが開くとともに14頭が一斉に走り出した。いきなり飛び出したのはダッシュマイケル・・・と、最内のグランドシャークだ。芝が深く、並の馬ではダートより足抜きが重くなりそうな最内を気にすることなく突き進む。なんと言うパワータイプだ。
しかし、さすがに外側の良い馬場を疾走するダッシュマイケルが先頭に立ち、グランドシャークが続く。3番手には8番のミスダイナマイトが躍り出た。少し間隔を開けて1番人気のブラックアローが外めから加速して付けていく。
やはりラビットと見られるダッシュマイケルの少し後ろを追走していく作戦か。前目に付けるには少し不利な枠だが、ハヤテオウを通して得られたパラメータに従うならスピード、スタミナ、パワー、メンタルが総合的に優れる中でスピードが高い。外枠からでも最初の直線のうちに前めを取ってくることが予想できていた。少し後ろ目のハヤテオウは5番に付ける。
「(よし、悪くないぞハヤテ。このままキープだ)」
「(命令すんな)」
「(命令じゃない。指示だ。フラワーのための)」
「(わかったよ)」
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