第19話 グランドシャークという馬
ナンデモ競馬場に到着してからいそいそと準備して、検量やゲートチェックを済ませた。結論から言えば全て順調で、2歳馬の堂々とした振る舞いに、レースの係員たちからも感嘆の声が出ていた。ちなみに旗手の計量は不正がないようレースの前後に行われる。
駿馬はゲートチェックで一堂に会した14頭の馬たちをできる限り把握した。元の世界では週中に各レースの登録馬リストが出たら有力馬をチェックし、出走馬と枠順が決まったら全ての出走馬の成績、サイズ、斤量、位置取りの傾向、ジョッキー、前走の距離、重馬場の得手不得手などの情報をデータマンにもらって分析、それぞれの調教師と作戦をたてるというのを繰り返してきた。
ただ、駿馬自身はデータ以上に現場での空気感や印象を重視する。当日の感覚で作戦を変更することもあり、駆け出しの頃はそれで調教師に怒られたり、好走したにもかかわらず主戦を降板させられたこともあった。それでも騎手として実績を積み上げ、今はそのときに駿馬を降板させた調教師にも最終判断は一任されるようになっていた。
そもそも今回はそういう情報がざっくりとしたものしかない中で、ゲートチェックで一通りの出走馬を確認できるのは貴重だった。まずは1番人気である白金厩舎のブラックアロー、さらにサンクスギフトをチェックする。
ブラックアローは漆黒の馬体とまさしく矢のような白い縦ラインが額に入っている。7歳馬とのことだが、おそろている気配はなく、中央競馬の重賞ウィナーという貫禄を漂わせていた。
ブラックアローは大外から1つ内側の7枠13番だ。RRCの現役時代は第四コーナーからの差しを得意としていたようだが、どういう展開になっても捌ける自在性も評価されていたと愛子から聞いた。
何より眼光鋭い小幡和義というジョッキーに注意する必要がある。勝負服は白金ファームらしく真っ白に金の縦ラインを入れており、ブラックアローの黒鹿毛とのコントラストでなおさら明るく見える。レース本番では枠に合わせた色のビブスで大体覆われてしまうわけだが。
ブラックアローのラビットと目されるダッシュマイケルは6枠11番となっている。明るい栗毛のポーニーのように小柄な馬だった。サラブレッドには珍しく両耳が垂れた、文字通りウサギのような馬だ。陣営にとっては大事な役割なのだろうが、ちょっと哀れになってくる。
前回優勝馬のサンクスギフトは4枠7番。青毛が朝の陽光に輝いている。14頭立てのちょうど真ん中からスタートする。情報によると3歳のときに前脚を大怪我してRRCを引退したが、奇跡的な回復を見せて独立競馬で復帰した。現在は6歳で、トップレベルの賞金稼ぎとなっているという。
「(ハヤテはどう思う?)」
「(何が?)」
「(ブラックアローとサンクスギフトだよ)」
「(勝てるんじゃない?)」
「(あっさり言うな・・・)」
「(あっちの馬が危険。気をつけないと)」
「(え、どの馬?)」
「(一番内側の灰色っぽい馬)」
灰色っぽい馬?駿馬はハヤテオウが目を向けている最内を見た。1枠1番・・・確か、グランドシャーク・・・
最内は一見有利だが、外側の馬に包まれるリスクがある。しかも、ダイナーレディに教わった通り、内側はかなり芝が深く、余程パワーがないと減速は免れない。ただ、元の世界で話すことはできなかったが、ハヤテオウは非常に利口な馬で、危険なライバルを察知するような気配があった。単純に気になる牝馬をキョロキョロ見ていることもあったが。
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