第12話 ジョッキーの資格

 体力ゲージだって・・・まあ、いかにもゲームっぽい名前だが、なんでハヤテオウの口、正確には心だが、そんな言葉が出てきたのか。


「(ハヤテ、お前ひょっとして何か見えるのか)」

「(見えているというより、感じている)」


 ハヤテオウにはパラメータだっけ、そういうゲームの数値みたいなものがあるとすると騎手にもあるのだろうか。今のところ何も聞こえないし、感じないけど。 

 馬は急に止まると怪我のリスクがあるため、徐々にペースを落として、ダグの状態にしてから静止させた。心臓が少しバクバクしているような感覚がある。仮に体力ゲージのようなものが自分の体にあったとしても、動悸や疲労感はあるし、汗も流れている。この世界で生きているんだ。


「お疲れ様。すごいペースだったから駿馬さんもハヤテオウも疲れたでしょう」

「こいつ、やる気出しちゃって・・・」


 駿馬が愛子と会話している間にも、ハヤテオウはフラワースマイルと鼻面をスリスリし合っている。ひょっとして、もうカップル誕生しちゃってるのか。確かに恋の馬に駆け引きは不要かもしれないが・・・繁殖前の牝馬と言っていたし、あんまりゾッコンにさせてもまずいかもしれない。


「愛子さん、フラワースマイルは何歳なんですか?」

「3歳です。今年から繁殖に出したかったのですが、資金が無くて、融資の目処も立たなかったので見送ったの」

「そうなんですね」


 この、マセがきめ・・・元の世界では馬年齢にすると2歳が人間の12歳で3歳が17歳ぐらいと言われる。3ヶ月を足してもハヤテオウは13歳ぐらいだろう。フラワースマイルは18歳ぐらいか。とんでもないな。俺なんて24歳まで・・・まあ人間の常識で考えてもしょうがないか。


 駿馬は愛子とともに裏手から柵の内側に戻り、ハヤテオウとフラワースマイルを馬房に戻した。庭の水道から二つのバケツに水を入れて二頭に飲ませた。さすがに喉が渇いたのか、ハヤテオウは勢い良く飲む。一方のフラワースマイルはゆっくりとバケツに口を入れた。


「私たちも休憩にしましょうか。クッキーを焼いたので、紅茶にしますね」

「あ、はい。ありがとうございます」


 この牧場に来て3日ほどだが、すでに我が家のように落ち着く。馬みたいに、不躾ぶしつけに愛子の年齢を聞くことはできない。ただ、旦那さんはいないようだ。彼氏がいる様子も・・・いやいや、何を失礼なこと考えてるんだ。


 とにかく今やるべきことはレースに勝ってスマイル牧場を救うこと。そしてRRCにハヤテオウを正式な競走馬として登録させる・・・あ、そういえば騎手の資格ってどうなってるんだろう。


「愛子さん、RRCの旗手って資格とかどうなってるんですか?」

「もちろん資格は必要ですよ」

「そうですか・・・やっぱり専門の学校に通わないとダメだったりしますよね?」

「いえ、手続きをして試験に合格すればRRCの騎手になれます」


 駿馬はそれを聞いただけでホッと胸を撫でおろしたが、愛子は「もちろんRRCのジョッキーになりたい人は大勢います」と続ける。


「競馬学校に通うのが普通です」

「そうでしょうね」

「あとは独立レースで腕を磨くとか・・・今回も何人かは参加するんじゃないかしら」


 そうか・・・今度のレースは俺のジョッキーとしての腕を試す場所であるんだ。駿馬は心を躍らせた。



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