第10話 新たな不安

 ハヤテオウが2歳馬だって!???

 こっちの世界は馬の年齢の数え方が違っているのだろうか。一応、駿馬は愛子に聞いてみたが、元の世界と全く変わらなかった。生まれたてで当歳、そこから1歳、2歳、3歳と年齢を重ねて行く。1年も365日だという。


「どうかしたんですか?」

「あ、いや、特には・・・」

「ハヤテオウ、問題ないみたいで良かったですね」

「そうですね」


 一応返事はしているが、頭の中は疑問でいっぱいだ。ただ、言われてみると確かにナショナルダービーを走った時より少し太めで、顔立ちもあどけない気がする。これが違和感の正体か・・・ゲームの世界に来て、ビジュアルが少し変わったのかなと思い、それ以上は深く考えていなかった。


「じゃあ駿馬さん、牧場に戻りましょうか。マカベさん、ありがとうございました」

「ああ。気を強く持つんだよ。『ナンデモ電機ステークス』の結果、楽しみにしているぞ」


 院長はドアの外まで来て、受付嬢と共にハヤテオウを乗せて走り去るトラックに手を振ってくれた。ゲームでもこんな演出あるのかな・・・駿馬は少し気を紛らわせたが、まだ疑問は強く残っていた。道中、後ろのハヤテオウに心の会話で聞いてみる。


「(おいハヤテ、さっきのデータお前も聞いたか?)」

「(ああ。健康第一、良い仔が作れそうだ)」

「(おい、お前はまだ種牡馬じゃないだろ。それより年齢だ。元の世界でお前が年齢のことなんて考えていたかは知らないが・・・)」

「(失礼だな。歳の数え方ぐらい分かるぞ。親父は2歳3ヶ月と言ってたな)」

「(おかしいと思わないか?)」

「(いや全く)」

「(だって、こっちの世界に飛ばされたのはダービーを走った直後だろ。知ってると思うが、出走条件は3歳だ)」

「(ダービーなんて走ってないぞ。新馬戦に向けた準備をしてたじゃないか)」


 駿馬は一瞬思考が止まってしまった・・・とりあえずハヤテオウに「(ありがとうな)」とだけ言って、心の会話を止めた。ハヤテオウと記憶が食い違っている。ハヤテおうとともに、雷のようなものに直撃されて、この世界に飛ばされたことは間違いないだろう。

 ハヤテオウだけが、まるまる1年前に体も記憶も巻き戻った状態で転移したということか。ハヤテオウの態度が少し横柄に感じるのも、駿馬が主戦騎手に指名されて時が経っておらず、信頼関係を築けていないだけなのかもしれない。


 そうした疑問に増して、新たな不安が生まれた。2歳それもデビュー前のハヤテオウで『ナンデモ電機ステークス』に勝てるのか。


「愛子さん、独立レースの年齢規定は」

「無いですよ。健康状態に問題なければ何歳でも出られます」

「はい」

「RRCを引退したけどスポットで独立レースに参加する場合もあるし、RRCデビュー前の若馬に実戦を経験させるために出す馬主さんもいます」

「はあ、なるほど」

「ビッグレースの『ナンデモ電機ステークス』に出る2歳馬はハヤテオウぐらいだと思いますけど」


 もしかしたら愛子さんはこちらに気を遣っただけでなく、ハヤテオウが若馬であることを察して、本当に勝てるのかという疑念を抱いたのかもしれない。しかし、あれだけタンカを切った以上、引き下がるわけには行かない。

 今のハヤテオウが出せるベストを出させて、あとは天命に従うしかない。どの道、ここを突破しなければ新しい道は開けてこないのだ。

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