第9話 医療チェック

 翌日の午前に愛子と駿馬、ハヤテオウは馬運車を兼ねるトラックで、最寄りの診療所を目指した。牧場の留守番は


 それにしても愛子さんの作った朝ごはんは美味かった。フラワースマイルや家畜の番は愛子の姪っ子というエミが担当した。自転車でスマイル牧場までやって来たエミは中学生ぐらいだろうか。駿馬を見るなり睨み付けて来たが、馬房でハヤテオウを見て態度を豹変させた。


 愛子によると、相当な目利きなんだそうだ。セリに連れて行くと、ほぼ例外なくレースで活躍する馬を的中させるが、今のスマイル牧場には素質馬を買うお金がなく、その度にエミを残念がらせてしまっているという。


 それにしても・・・最寄りの診療所と言っても1時間は走ってるな。後ろからハヤテオウの「(暇だ〜、まだ着かないのか?)」という心の叫びが聞こえてくる。

 出発の時もフラワースマイルと離れるのを嫌がって、馬雲者に入れるのも大変だったのだ。「そんなに嫌ならリードを付けるぞ」と言ってようやくおさまってくれた。


 独立レースに出ることについても最初はなんで勝手に決めたのかかなり拗ねられた。彼にもNRCトップホースのプライドがある。それに「(俺はお前の所有物jなないぞ)」と主張するように、そもそも駿馬はハヤテオウのオーナーでも調教師でもないのだ。

 「(真っ先に相談するべきだったな。悪かった)」と一応謝りはしたのだが、理由を説明したらすぐに分かってくれたし、フラワースマイルにも伝えたようで、スンスンと鼻先を首元に付けられて、人間でいうニヤケ面みたいになっていた。

 犬とか猫は飼い主に似るみたいなことを言われるが、少なくとも異性に対する積極性は似ても似つかない。まあ、あくまで主戦ジョッキーであって、飼い主ではないのだけれど。


「診療所はもうすぐです・・・あの白い建物」


 道路の脇に数件軒を連ねた真ん中あたりにその建物はあった。この一帯にどれだけ競走馬を扱っているファームがあるのか知らないけど、なんとも頼りない感じだな。『マカベ医院』という看板がかかった建物の手前にある駐車スペースに、愛子はトラックを停めた。


「さて、行きましょうか」


 愛子が入り口のベルを鳴らし、中からの返事を待ってドアを開ける。建物の外観は簡素で大きくないが、ドアは大型の馬も余裕で通れる大きさだ。


 結論を言うとチェックは短時間で終わった。院長・・・と言っても受付の女性と彼氏かいないのだが、その場でハヤテオウの馬体を観察し、元の世界でいう新音響のようなものをペタペタ触れただけだ。


 馬名:ハヤテオウ

 性別:牡

 年齢:2歳3ヶ月

 健康:異常なし

 違法性:問題なし

 体重:512kg


 院長はそれらのデータを淡々と読み上げた。あれだけのチェックで、なんでこんなことが分かるのか。いかにもゲームっぽいが要はそういうことなのだろう。もう深く考えすぎるのを辞めよう。しかし、駿馬が最も踊りたのはそこではなかった。


「2歳3ヶ月・・・ですか。3歳じゃなくて?」

「ええ、2歳3ヶ月です。間違いありません」

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