第7話 ダービーミリオネア

 RRCという名前で駿馬は確信を強めた。ここは競馬RPG「ダービーミリオネア」の世界だ。元の世界で中央競馬はNRC(ナショナルレーシングクラブ)だが、大人の事情でRRCなのかもしれない。


 惜しむらくはイベントの出演記念にもらった「ダービーミリオネア」をほったらかしていたことだ。もともとゲームなんてやらないし・・・無類のゲームオタクとして有名な競馬仲間の三条学なら、この世界に飛ばされても、かえって喜んでいたかもしれないのに。


 何れにしても、その『ナンデモ電機ステークス』に勝利することで世界が開けるのではないか。愛子には何度も首を横に振られたが、これも縁だからという強引な理由で押し切り、最後は彼女も折れた。もちろん、本心は有難いはずだ。ただ、ハヤテオウの能力は見せておかないとな。


「あの・・・ハヤテオウの血統を教えていただけますか?RRCのような手続きは必要ないのですが、馬券は販売されるので、登録の際に血統表は出さないといけないのです」

「ああ・・・そうですよね」


 危なかった。普段はお手馬の血統なんて父と母ぐらいしか見ないが、たまたま特集番組でインタビューに答えるために、ハヤテオウの血糖だけは一夜漬けで覚えておいたのだ。ただ、ハヤテオウも芝野駿馬も知られていないこの世界で通じるだろうか・・・。


「え・・・あのキングフィロソフィーですか?彼のお父さん」

「そうです。母馬はレジェンドルビー」

「伝説のマドンナ・・・」

「はい、そのレジェンドルビー」


 なんだ、繁殖の牡馬や牝馬は元の世界と同じってことか。スマイルティアラという名前は聞いたことがない。もしかしたら「ダービーミリオネア」のプロローグの1つなのかもしれない。しかし、本当にゲームの世界に飛ばされるなんてことがあるのか。やっぱり痛みも苦みも感じる夢なのだろうか。とにかく、ここで生きていくしかないわけだが。


「そんな良血馬を独立レースに出すなんて、なんだか申し訳なくなってしまいました」

「いっそRRCに登録しますか?そこで勝ちまくれば白金なんたらの借金なんてすぐに」

「それは無理です」

「なぜでしょう?」

「登録料が300万円かかるんです。しかも返済期限は絶対なので、間に合うレースが『ナンデモ電機ステークス』しかないの。やっぱり駿馬さんたちにご迷惑は・・・」

「いえいえ、出ますよ。そのレースに勝って、残りのお金からRRCの登録料を出してもらうのはどうですか?それならギブアンドテイク成立でしょう」

「はい。ありがとうございます」


 その場で涙ぐむ愛子を見て、駿馬は思わず胸が苦しくなった。

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