第1話 ゲームみたいな世界

特殊スキル「人馬一体」を獲得しました・・・


 う〜ん・・・

 朦朧もうろうとする意識のまま駿馬は周囲を見渡す。やけに明るい青空が目上に広がり、周囲は果てしなく緑の芝が広がっている。はるか先に小屋や風車らしきものが見え、周囲を木の柵が囲んでいた。どこからともなく羊らしきメエ〜という鳴き声も聴こえた。


 牧場か・・・

 まだ頭がはっきりとしないが、駿馬は少し落ち着きを取り戻すと、レースの記憶が蘇ってきた。雨の中、ハヤテオウと一緒に直線を駆け抜けて、そこで雷らしき光に包まれてからは記憶が無い。しかし、なぜこんな場所にいるのだろう。雷で僻地に飛ばされるなんて聞いたことがない。


 そういえばハヤテオウはどうなったのか。そう思うなり駿馬は周囲に首を振って見回した。「あ!」と駿馬が声を発した瞬間には振り向いた先から一頭の黒鹿毛が勢い良く迫ってきていた。一瞬ぶつかるんじゃないかと駿馬が思ったのは杞憂で、目前で右にステップして駿馬を避けると、くるっと旋回してゆっくり近づいてきた。


 その立派な体躯と対照的にあどけない表情はハヤテオウのものだった。ただ、駿馬がよく知るハヤテオウとは少しだけ違っている気もする。しかし、紛れもないハヤテオウだった。一体何が起きたのか、状況が全く分かっていないが、ちょっと絵的になっているような世界は気になる。


「なあハヤテ、何が僕らに起こったのか分かるか?」

「(さあ、落雷でどこかに飛ばされたことぐらいしか分からない)」


 ギョッとした。ハヤテオウが・・・しゃべった?まさかそんなはずは。


「お前が喋るなんて気のせいだよな」

「(いや、声に出してはいない。心に語りかけているだけだ)」


 心に語りかける・・・確かに今もハヤテオウは口も動かしていなかった。頭の中に語りかけてきているのか。しかし、それにしても馬って心に語りかける以前にそんな思考できたっけ。いくら利口なハヤテオウでも明らかに変だ。


「そんなことどうやってできるようになったんだ?あ、人馬一体・・・」

「(何のことだ?)」


 なんだこりゃ・・・まるで何かのゲームみたいだな。まだ状況をよく飲み込めていはいないが、あの落雷でハヤテオウと一緒にどこかへ飛ばされたこと。そして普通の世界ではないということが何となく分かってきた。


 とりあえず、遠くに見える小屋に行ってみるか。そう駿馬は思い立つと、よっこらしょと腰を上げた。

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