第5話:誰そ彼の狂乱 後半

第5話:誰そ彼の狂乱 後半



限りなく細い声で、私の名を呼んでいるのが分かる。だから私も応えるのだ。


「サクラ……」


私の意識は湖の底に沈んでいるんじゃないかと思うほど、重く冷たく苦しい所にある。息はできているのに息ができないような。手の感覚はあるのに、自分のものじゃないような。


視界に映るサクラは、私によって何度も何度も殴られていく。右手でサクラの首を掴み、左の拳を乱暴に捻じ込み続ける。


サクラは首にかけられた手を引き剥がそうとするなれど、それ以上の抵抗をしてこない。別に怯えてる目でもない。単純に傷付けたくない、そんな思いを目で訴えている。


しかし私の拳、というか暴行は止まらない。


遂には血すら滲んできた拳は、されど止められない。


「ニア……さん、しっかり!!」


懸命に耐えている様子のサクラは、私に殴られる度、息を全て吐き出すように悶えている。


とにかく不思議なのは、繰り出される拳のどれもが私には到底持ち得ない膂力を秘めていることだ。私の拳ひとつくらいなら平気で受け止めてきたサクラも、この暴行によっては深刻なダメージを負わざるをえないようだ。


唐突な暴力。意思の利かなくなった体。周囲を見れば同様の景色だ。


私達は先程まで、ひたすら無邪気に基礎魔術を学んでいただけなんだぞ?


何故こんな目に遭っている? 誰のせいだ?


サクラは机に叩きつけられる、その衝撃で机も割れ、サクラの口内からも血が滲んでいるのが分かる。私達に限らず、恐ろしいことに血の匂いが蔓延し始めている。


この場全体か、もしくはもっと広い範囲で、だ。


「ごめんなさいどいて!」


呆然か絶望か、私は涙すら溢れかけたところだった。しかし次の瞬間、私の顔面へと横殴りの強烈な痛みがぶっ刺さる。


体の操作は私の意思を離れているのに、痛みだけは鮮明に伝わってくる。


その唐突な衝撃が私を講義室の壁まで吹き飛ばした。


サクラを握り締めていた手も、一瞬にして解放されたのを感じる。痛みと安堵の感覚を抱いた。


「ぐ、ぐゔぐ……」


言葉にならない叫びで横たわる私の元へ、私を吹き飛ばした張本人である基礎魔術の教師が駆け寄ってくる。


すかさず……というには意思とは無関係だが、彼女にも飛びかかろうとした私の体は、しかし言うことを聞かない。


痛みのせいもあるだろう、しかし、彼女による魔術という要因も非常に大きい。


最早暗転しそうな視界が、近寄ってくる教師を掴んで離さまいとする。ただ、輪郭までははっりきとしていない。はっきりと捉えられない。


本当に意味が分からない。自分だけ、どこかへ切り離されたような感覚なのだ。


「ニア、落ち着くのよ!」


教師が叫ぶ。いや落ち着くも何も、私はどこにも落ちれないし着けれない。私はここに居る、私は落ち着いてるのだ!


彼女はゆっくりと私の頭へと手を回す。


すると、頭の中がぐちゃぐちゃになるような感覚に襲われる。誰かが家に押し入って、強盗でもしているかのようだ。ただこの強盗は盗むよりか、荒らすことだけが目的のようなのだ。


「ニア、少し眠ってて頂戴。その……こうするしかなかったの、ごめんなさいね」


次第に、教師の手は私の目元を隠すような位置まで降りてくる。完全に覆われる手前、教師による苦悶のような表情を見た。


沈み続けていた意識が、ふと引き揚げられたような気がする。だが体が一気に軽くなった。


次の瞬間、突撃してきた生徒数名によって彼女は地面へと叩き伏せられた。そこへ群がるハイエナのように、すかさず他の生徒も食いついていく。

慌てた様子のサクラが、教師を助けまいと生徒の群れへと駆け寄るものの一向に入り込めない。


そして私も何かしまいと体に命令する。しかし動かない。


四肢にも力が入らない私は、その間も壁でうなだれたままだ。何故なんだ? どう力んでも指先が震えるくらいで、心臓の音が伝わってくるほど、体が静かなのだ。


対して周囲は凄惨な有様だ。比喩ではなく右から左へ、実に目まぐるしい暴力の推移が起きているのだ。


「大変な様子だね?」


混沌ここに極まれりと嘆きたくなる現場にはあまりにも場違いで、気が緩んでしまうような明るい声が響く。視線を動かせば、頭上から覗き込んでいたイロハ先輩に気付く。いや、気付いてしまった。


「はっはっは! なんて顔してんのさ」


今の私に、先程までの狂気と暴力が有り余って居たならば、絶対にその首筋に噛み付いてぶっ殺してしまえるだろう。


「さあ、ここは煩い。行こうか」


舌すら動かせぬ私は、重く瞬きだけ返すとイロハ先輩も痛々しいウインクで返事を重ねたようだ。待て、行くって……一体どこに?


イロハ先輩が私の背中へ手を回せば、口調と同じくらい軽々しく私を持ち上げてしまう。ふと、先輩の口が微かに動いたような気がする。気がするだけだ。


「目的地は、現在バリケードの敷かれている食堂だよ。そこに行けばひとまず安心だからね」


お姫様抱っこで私を運び出すイロハ先輩の前へ、狂った様子の生徒数名が飛び出す。彼らを文字通り蹴散らし、踏み込み台として勢いよく天井の方へと飛び出していった。急な上昇に吐き気を催しかけるが、吐いてる暇すら感じさせずに抱いた違和感を確かめるべく見えたのは、逆さまの世界だった。


「蜘蛛みたいだよね!!」


先輩は天井に足を貼り付け、そのまま歩き始めたのだ。まさに蜘蛛のようだ。


しかし優雅に歩こうとした先輩の頭部にも、数名の魔の手が迫ろうとしていた。


「これは新手のアトラクションかな?」


難なく避け、肩から生やした謎の触手でもってして彼らを地面へと打ち返す。もう何が何やら分からないが、少なくとも私がどうやって抱かれているのかを確認したい。本当にどうやってるのだ?


ふと視線をズラせば、やっと生徒の群れから這い出てきたらしい教師とサクラの姿が見える。二人とも既に疲れ切った様子だ。


あの人達を放っておくわけにはいかない。そう言いたかったのに、口を動かすこともできなければ目で訴えることすらままならない。それを先輩が受け取ってくれるかどうかという点でも不安だ。


体が動かないだけで、こんなにも冷たくなれるのだ。


私達は講義室の小窓を通り抜け、廊下に着地しては、隙なく移動を再開する。


背後から忍び寄る生徒も、廊下の角から躍り出る生徒も、全員かわして突き進む。先輩は猛獣のように駆け抜けるのだ。これに運ばれている私も、無事とは言えないのだが。


間も無く見えたのは巨大なバリケードで、位置的に食堂の前に張り巡らされたものだろう。その障害を小馬鹿にするように乗り越え、私達というかイロハ先輩は食堂へと降り立つ。


「着いたよ!」


先輩の言った通り、そこは食堂だった。しかし今日の昼に見たような穏やかなものではない。外ほどではないが、惨状には変わりないのだ。


骨で折れたのか、机に寝かされながら唸っている者。身体中から血を流しながらも、他生徒の手当にあたっている者。皆の顔は心身ともに血みどろだ。


「ニア君、一旦ここで寝てもらうよ」


彼らと同様に、私のことも椅子に横たわらせるイロハ先輩。手付きは意外と丁寧だった。


「あ、そうだ、喋れないんだったね」


私がウガウガと唸っている様子を察してか、そう語る先輩の手が私の顎に届く。


すると瞬く間に口の調子が戻ってくるではないか。


「おい、なんで私だけ連れてったんだ!!」


「開口一番それか、君は」


非常に上から目線な先輩は、呆れた様子を見せつける。


「君はね、あのピンク髪の異世界人だとか、エセ魔法使いだとか、そんなちんけな奴らとは別なのさ」


「は? え? エセ魔法使い?」


「あぁ、基礎魔術の教師のことだよ」


彼女をエセ魔法使いと呼ぶ理由が分からない。何故エセなのだ?


何せあの教師は、この学園において唯一の魔法使いなのだ。


「そう、人は彼女を『力の魔法使い』と呼ぶね」


「誰に説明してるんですか?」


「え? あぁまあ誰かさんにさ。とにかく、アイツはエセ。本物の魔法じゃないのさ」


はっきり話が見えてこないが、ただひとつ。


「それで、彼女達を見殺しにしたんですか?」


理屈を抜きにして、これだけは問い詰めたかった。最後に見たのは生徒達に揉まれていく様子だったのだ。心配も不安も止まらないのだ。


「見殺し?」


そう言ってイロハ先輩は噴き出した。何が面白いのかも分からない。そのまま笑い続ける先輩はいっそ清々しいものの、全く以って意地汚く薄気味悪い笑みであることに変わりはなかった。


しばらく笑った後、イロハ先輩は私の顔を掴み、鼻先が触れ合う位置にまで引き寄せた。


「アイツらに価値なんて無い」


何を語るかと思えば、そんなことだ。


「ふざけるな、先輩に決め付けられる道理なんて——」


「あるんだな!! それが!!」


頰を軽く捻理、私の言葉を遮った先輩は続けて甲高く叫んだ。


「価値、記憶、理論、期待、未来も希望も、全て平等に君以下さ」


先輩は舌を伸ばす。


「魔術も、魔法も、全部空想! 国も、学校も、全部陰謀!! 君も、僕も、全部人形でしかない!」


最高の舞台を完成させる為の。


そう言葉を続けた彼は流れるように、伸ばした舌をこちらへと向けてきた。


え? ちょっと待って、何、なんなの?


その舌に止まる様子は無い。狙う先は私の口の中だろうか、さも当然のように、無防備な私と絡み付こうだなんて邪悪なオーラすら見える。


「い、いや、やめ——っ!?」


抵抗しようにも、力の出せない私は侵攻を防ぐ術を全て失っていることになる。


いやここまで来たら包み隠さず言うべきだろう、私にキスの経験は皆無だ!! そしてこんな初体験だけはごめんだ!!


そして、先輩の吐息を感じ、もう死んだ方がマシだとすら思いかけた直前だった。重い打撲音が響き、イロハ先輩は唐突に動きを止めてしまう。次第に床へ倒れ込もうとする先輩の裏から、昼間の本を携えたマリアが顔を出す。


色々と理解は追いつかないが、ひとつ分かるのはイロハ先輩の後頭部にある殴られた痕跡と、いかにも凶器となったのであろうマリアの本だろう。


「もう少しで変態にやられるところだったわね、ニア」


私は小さく涙しがら、感謝の言葉を零した。

しかし高値の本を鈍器代わりにするあたり、社会的に問題無いのだろうか。


「マリア、まだサクラが……」


結局動けないままの体で、何とかマリアの方へ這い寄ろうとする。だがやはり、プルプル震えるので精一杯なようだ。


「そうよね、私もまあ、なんで平気なのか分からないんだけど」


それを聞き、ふと周囲に目を凝らした。今ここに集っているのは、大概が年長者であったり成績優秀な面々だろう。


私が巻き込まれた場で、サクラと教師だけが無事だったのも変たが。


「でもひとつ分かるのは、この状況が学園全体で起きているということね」


だからサクラ達も私達と同じように、どこかに避難しているかもしれない。そんな希望を持つことはできる。


足元に倒れている先輩を見下ろし、その本心を知りたいと思ってしまった。


「一体全体、価値って何だ?」


そうこうしていると、食堂にも見知った顔が集まってくる。主に教師陣だが。


「みなさん落ち着いてください、我々教師が必ず解決します」


火術学の教師である、アンバー先生がそのように声を張り上げる。あの人の場合は普段から声がデカいが、有事である今回も衰えのない声色だった。


半ば、弱々しく泣いたり嘆くだけの生徒も増えてきた食堂という空間に、どこか平穏が戻る。


それに続き、倫理学や自然学の助教師などが生徒へのケアにあたる。


すると、ある生徒が幻獣学の教師の安否を確認すべく、近くの教授へと尋ね始めている様が見えた。


きっと親しかったのか、恩師なのか、不安になるのも無理ないのだ。


それだけじゃない、あの先生は、自分の友人は、ルームメイトは、あのペットは?


質問責めに襲われ、わなわなするしかない教師陣営。


それが余計、生徒達の不安を掻き立てたのだろう。一部では怒りすら発露する者も少なくない。


「落ち着きなさい!!」


アンバー先生は、見かねて炎を放出する。勿論生徒の居ない方向に向かってである。


「順を追って現状確認をします! 全員、まずはそこからです」


それに萎縮した生徒は席に着く。そうじゃなくても、その場にいた全員が注目を向けたことに変わりはない。怪我人も含めてだ……そういう点では落ち着けない現場だ。


あ、床に転がっているイロハ先輩は除く。


「我々教師は現在、懸命に原因究明及び解決へと臨んでいます。ただし学園長含む教師数名の安否は確認できていません」


そんな説明を聞いたマリアが、私に寄り添うように呟いた。


「簡単に死ぬような奴らじゃないわよね、ウチの教師って」


マリアの言葉は、何より彼女自身の不安から来たものだろう。ただ、現に食堂までやって来て生徒を取り纏める余裕すらあるのだから、マリアの言葉も間違ってるわけじゃない。


アンバー先生の語ったことを掻い摘むと、つまり学園長や基礎魔術の教師は行方知れずのまま、生徒に関しては更に確認が取れていないということだ。


学園長こそ問題は無いだろうが、基礎魔術を教える彼女には若干の不安を感じざるをえない。


「でも魔法使いでしょ?」


そうだ、あの教師は類い稀な魔法使いなのだ。魔力に関する研究で数々の新発見や、新魔術の開発に成功している。その場合、魔法と呼ばれるのだが。


サクラも居るのから……脈絡はないが、きっと無事だ。


「そして現在、幻獣の飼育施設にも異常があったことが分かっています」


その確認に向かっているのが、ここに来ていない幻獣学の教師とのこと。


ふと、ある生徒が投げかけた。


「おい、今おかしくなってる生徒連中はどうするんだ?」


その声によって、教師陣の大半が複雑な表情を浮かべ始める。


「おい待てよ、もしかして殺すつもりか!?」


肯定も否定もしないことから、誰もが結論を悟ってしまう。実際にここまでの闘争ならば、死傷者の数は洒落にならないだろう。その数を減らそうとしても同じだ。


自分達を守る為に、仕方なく手を下す。平穏な時代だからこそ、引っ掛かる行動だ。


と、私は言うが……私だって人は殺したくないし、何よりも。


「お前達、魔術で人殺しするつもりか!?」


よく見れば、声を荒げているのは、昼間食堂で歓談していた他寮の生徒達だった。


生徒の言葉に反論できるものはいない。ともすれば、頷くこともできないのだが、しかし唯一歩み寄る教師が居た。


「人殺し……だと?」


非常に冷たく、鋭い言葉で生徒を睨みつける男、それは倫理学の教師だった。


「あぁ人殺しだろ? 間違ってねぇよな!?」


「ああ間違っていない。そのような有事において、我々は間違い無く人殺しをするだろう」


認めたか、と更に揚げ足を取ろうとした生徒の口を塞ぎ、倫理学の教師は言葉を続ける。


「だが、我々が使うのは人殺しの為の魔術だ。お前達生徒が使うものとは訳が違うんだよ」


「や、やめませんか……先生」


そのように水を差したのは自然学の助教だった。先日の錬金術の授業にて、一流錬金術師である講師の隣で怯えながらアシスタントに回っていた教師だ。


獣人であり、全身が毛皮で覆われていて、顔も恐ろしい狼そのものだ。しかし心は反比例するように優しいもので、一部生徒からは根強い人気を誇っている。


本人がそれを自覚することはないだろうが。


「えぇそうですね、こんなこと真っ先にやめたいですよ」


倫理学の教師は、心底疲れた様子で言葉を返す。何をやめたいのか、何に威嚇しているのか分からないが、少なくとも眼力によって生徒が萎縮させられてしまったことは確かだ。


彼だって、友人が心配なのだろう。


しかし一度遮られた流れは、生徒達の集中を切らし、瞬く間に個人個人での会話が広まっていく。喧騒が戻った食堂で、マリアが語りかけてくる。


「ニアは、何故こんな格好をしているの?」


こんな格好と言うのは恐らく、無様に椅子から垂らしている手や、そもそも椅子の上に寝転がっている様子のことだろう。


「わからない、基礎魔術の教師が原因だとは思うんだが……体が全く動かないんだ」


どれだけ頭でイメージしても、体が動かない。まあ、そろそろ慣れてきたところはある。


「うーん、もしかして内在魔力でもやられたのかしら」


「何か知ってるのか?」


「いや私二年生よ? あんたの知らないことくらい知ってて当然ね」


完全に忘れていた。マリアが先輩だということを。

それで内在魔力がやられる、とは如何なる意味かと聞こうとしたのだが、再びアンバー先生による声がかかり、会話は止められてしまった。


「みなさん、思い思いの悔しさはあると思います。しかし今暫くはここで辛抱していただけるとありがたい。何より人のみならず、幻獣も闊歩している可能性があるのです」


幻獣学の教師はその為に出向いているのだ。彼女の努力を無駄にしない為にも、無能な生徒諸君は静かにしていろという御達しだろう。


いや、本当の意味で無能な私が言うのだから、冗談ではない。


でもサクラが気になるのは確かだ。


「幸いにも丈夫なバリケードや、ある程度の食料もあるのです。ここほど整った環境は他にありません。ですからみなさんも安心してください!」


その説明により、二つの不穏な空気が広がった。ひとつは人が死んでいるというのに「安心してください」などと言える心理に疑問を覚えるもの。そしてもうひとつが


「ねえニア、今のって盛大なフラグじゃない?」


盛大な揺れが食堂を襲う。突如として起きるそれに対応できるのは教師のみで、生徒達は一層慌てふためき始める。


私のように寝かされている者のなかには、地面へと転がり落ちてしまう者すら居るようだ。


「いたっ!?」


私もその内のひとりだ。下を見ると、未だ幸せそうな顔で寝るイロハ先輩が居た。クッションとなってくれたようだ。


揺れ続ける食堂、ふとバリケードの方に視線が行ってしまう。何かが来ているのだ。向こうから猛スピードで。


バリケードの広がる入り口と、私やマリアの居るテーブルは遠くない。


更に気づくのは、目下寝ているイロハ先輩の瞼が動こうとしていることだ。ヤバい、全方向ヤバい!!


「ニア!!」


次の瞬間、マリアが私を担ぎ上げ運び出す。かなり荒々しいが、それでも逃げれるならばと息を整えかけた時、バリケードが盛大に破壊される音を聞く。


マリアに担がれていて視界不良だが、傍目に分かるのは教師達が必死に魔術を放っていることである。


逃げろと叫ぶ声や、もう終わりだと嘆く声まで届く。


「マリア、大丈夫か!?」


「大丈夫じゃないに決まってんでしょうが!!」


マリアは大きく踏み込むと、周囲に大量の炎を纏いだす。

息を吸えば苦しくなる、灼熱のマントだ。


マリアは激しく叫び、その後私が感じたのは浮遊感だった。


だんだんと熱気が消えていく。


ああ涼しくなってきたな、そう感じた直後、私は激しく水面に叩きつけられてような衝撃に襲われて気絶してしまった。


考えらるのはきっと、マリアがあまりに強引な脱出を図ったということだろう。これが成功か失敗かは、私の意識が戻り次第分かることだ。


……まあ、戻ればの話だが。

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