第2話:異世界人 後半

第2話:異世界人 後半



「やれやれー! やっちまえー!!」


「女子同士だろうと関係ねえ!」


「ふっ、これが若さって奴か……」


「いやお前まだ一年生だろ」


無責任な歓声が中庭の外からガンガン響いてくる。否が応でも耳を傾けなくてはいけないのだから耳障りだ。しかし、そんな歓声のお陰でこの場に立てているのだとポジティブに考えることもできよう。


同時に、歓声のせいで逃げられなくなったとも言おう。


つまり、プラスマイナスゼロの歓声ということだ。果たして本当にそうなのだろうか?


「ニアさん、さっきから表情がコロコロ変わっていますが大丈夫ですか?」


「微妙ね」


中庭をぐるっと見渡せば、真ん中にぽつんとひとり、マリアが居た。


私達が中庭に着いた時に見た仁王立ちは、固く保たれているようだ。


ふと着いた時にマリアがひとりであることに疑問を抱き(別に逃げたくてそう言ったわけじゃないが)質問したのが、マリアひとりに対して私達ふたりで決闘だなんて、決闘と呼べるのかという内容だったのだが、残念なことに


「私は二年生で、あなた達は一年生。二人足してやっと平等よ、むしろ決闘らしいわ!」


とのことだったので、私はもう逃げられないらしい。


私達とマリアは中庭にて向かい合う。一方は非常に熱い眼差しを抱きながら、もう一方は……いやだから、アンタは何にそこまで執着してるんだよ一体!


それとこの決闘だが、魔術も交えての決闘となる。


このことを忘れていた私は、完全に一歩出遅れてしまった。


マリアの投げた金貨が地面に落ちたと同時、マリアの手元から一斉に炎がばら撒かれる。

勢い任せでバラバラの炎だが、そのいくつかは私を正確に捉えていた。


「ッ危ない!!」


咄嗟の判断か、横から飛び出してきて異世界人(仮)に巻き込まれ、私ごと地面へ転がる。


転がった先から今立っていた足場を見れば、過ぎ去った炎の跡のまま、芝生が丸焦げになっていたのが分かる。


「容赦無しかよ」


マリアの『二年生だから一年生ふたりでやっと互角』という理屈……実は的を射ており、実際に一年と二年の間に存在する実力差は無視できないほどだ。


しかも、マリアはただの二年生ではない。


「とんでもない火力ですね」


冷や汗をかきつつも、異世界人(仮)がマリアへと吐き捨てる。そして体勢を整えていくのだ。まるで喧嘩慣れしているようだ。


「そりゃ私はマリア……マリア=A=ノットだもの」


そうじゃない、今重要なのは彼女が市長の娘であることではない。

重要なのは、二年生の中で最も火術学に秀でているというマリアを、どうやって崩すかということである。


作戦会議すればよかったな。


「なら私は最強の錬金術師の友達よ!」


「え?」


そのことって彼女に伝えたっけ。

私が思考する隙など無いまま、彼女達は再び睨み合う。


「黙りなさい! 錬金術師が何よ、何が最強よ! みんな燃えてしまえばいいわ!!」


次の瞬間、マリアの両手から巨大な壁のような炎が生み出された。炎を作り出すスピードからも分かるように、やはり才能に満ち溢れているのだろう。きっと火力もそれに比例するのだ。


そして壁は、こちらが息をする間も作ってくれぬまま迫り来る。


だったらその炎、受けてやるしかない!


「下がって!」


そう叫びながら私は地面に手をつく。これが現状、私のやれる限りだ。


異世界人(仮)が後ろにステップし生まれた炎と私達との隙間、そこの地面が少し盛り上がったと思えば、一気に壁のごとく突起した。


それは私達の身長を優に超え、丁度マリアの生み出した炎の壁とも同じ大きさまで伸びる土壁だった。


「調整は完璧だね」


思わず自画自賛の声が漏れる。しかし、その安堵も呆気なかった。


「ニアさん、壁が!」


壁を見る。すると、とてつもない速度で内側から脆くなっていることが分かった。


壁の向こうからはマリアの力むような叫び声と、常時炎が注がれていく音が届いてくる。だがその光景を拝む時、それは私達の敗北を意味することになる。


「負けるものか!」


大きく後ろへ跳ねた後、再び地面に力を込め、もう一枚の壁を今ある壁の後ろに生み出す。更にそれを何枚も重ねていく。二枚、三枚、四枚……。


私が生み出すのと同時に壁の壊れていく音も聞こえてくる。だから余計に焦ってしまう。


少し顔を上げれば、何もできずに不安そうな表情を浮かべる彼女が見えた。


もしくは、何かしたくてウズウズしている顔なのかもしれない。だったら!


地面に着けている両手のうち、適当に片手を掲げる。すると、次々生み出されていく壁に同じく土製の階段が作られていく。


「殴ってきて!」


「分かった!」


嬉々としてその階段を踏み抜き、見事速度を保ちながら壁の上に到達した彼女は、一息の間もなく、獣のような雄叫びも上げながら飛び込んでいってしまった。


そして途切れた炎と、全て砕け散った私の壁。視界が開けていく。


しかしそこから見えたのは、殴られ気絶したマリアなどではなく、両手の平から頭程の大きさの炎を何発も射出し異世界人(仮)を狙うマリアの姿だった。


その四肢には、この戦闘で浴びた大量の泥がこびりついている。


そして当の異世界人(仮)はというと、無駄こそあるものの的確な体運びで炎の玉をかわし続けていた。


私が近づこうとしたところで、きっと被弾して終わりだ。手を出そうにも出せない。


「当たれ当たれ当たれ!」


マリアは叫びながら、半ば自暴自棄に炎を撃ち続ける。対して無言で避け続ける相手を見ると、まるでマリアが追い詰められているようだ。


いや——


「マリア! どこまで魔力を消耗するつもりだ!?」


遠目から見ても、彼女の目が白く濁っていることに気付けてしまった。

その意味は端的に言って、魔力切れだ。

魔術を酷使し続ければ、個人差はあるものの魔力が底を尽きてしまうのが道理である。そして魔力が底を尽きれば人体には悪影響が及ぶことになる。


普通ならば、何かしらの症状が現れるよりも先に、単純な疲労や、それから来る倦怠感、イメージの乱れによって魔術の使用を自制することになる。

そもそも、魔力と体力は根本的に同義なのかもしれない。

どちらも常人には数値化できないし、イメージしづらいものなのだが、それは確かに存在し命を燃やし続けている。


故に、自分自身の魔力を最も理解し管理してくれるのは、他の誰でもない、自分自身の肺や心臓なのだ。

そして魔力の消耗とは、体力の消耗よりも直接的な危険を孕んでいる。


今マリアに現れているのは白染眼という症状だ。

着々と眼球が白んでいくのが初期段階の症状なのだが、それが進行していけばいずれ視界は大きく歪むことになり、眩しくて瞼も閉じれなくなり、最終的には頭にまで症状が到達し、廃人となるのが白染眼の顛末だ。


流石に、廃人へと至るほど酷使するという方が現実的ではないのだが、その大小に関わらず、後遺症が現れる程度なら容易に引きお起こせるのだ。

特にイメージしやすい火術は、その使い易さからトランス状態に陥る人だっているのだと、アンバー先生自身も言っていた。いや、あの人の場合は自覚していたと言うべきか。


「そんなの分かってるわよ! うっさいうっさい! 燃えろ!!」


白染眼のせいで、あんな自暴自棄的な魔術しか放てなくなっていたのもあるだろう。それに、今ならまだ初期症状なのだ。やめようと思えばやめられるし、一旦落ち着けば症状も治るはずだ。そして彼女自身もそれを理解しているはずだ。

だと言うのに何故なんだ。何故彼女はそこまでして勝ちたいんだ。何が彼女を執着させるんだ。


もしや、相対する異世界人(仮)がそうさせているのか?


思えば、彼女の登場がマリアの調子を狂わしていたのは明白だ。談話室での一件に始まり、その後の各教室にて異世界人(仮)と私が親しげにしているものだから、下手に手を出せなかったのだろう。


私の視野がマリア達に向かなくなったのもあるだろうが、やはりあの時、再び食堂で遭遇したマリアはどこか悔しげだったのだ。


というかそれで思い出したのだが、今日、彼女の取り巻き達はどこから見ているんだ?

先程から視界にすら入ってないし、ひとりで来ていたあたりから疑問だった。

しかし、そんな思考に逃げていたかった私の願いは叶わなかった。


異世界人(仮)が遂に被弾してしまったのだ。


それを見たマリアの手も一瞬止まる。


「だ、大丈夫!?」


被弾した直後膝を着いてしまった少女の元へ慌てて駆け寄った私だが、正直何ができるわけでもない。

またこれは決闘だ、多少の傷ならば承知の上なのだ。


しかし彼女の被弾した部位は胴体、それも胸元に直撃したのだが、それを見た瞬間に下手な考えも消え去ってしまった。


少女の胸を抉るような、生々しい火傷の跡があったのだ。私は視線を逸らせないまま、あまりの酷さに焦りの声しか出なかった。


「なによ、もう終わったの?」


そう投げかけるマリアの視線は不安定だ。白染眼の症状にかなり侵されているのだろう。

今炎の手を緩めたのも、ただ少女の悲鳴を聞いたのが理由なのかもしれない。

いや最早この戦いがどう進んだかなんて関係ない。


「マリア、もうやめよう!」


「それは命乞いか何かかしら?」


「そうよ! 命くらい惜しいし、こんな子供の喧嘩で死ぬなんて、普通に考えて馬鹿げてる!」


「今更何を言ってるのよ、決闘なんだから——」


「私達のこと、そんなに殺したいの!?」


叫ぶ私は、同時に涙を流していたことに気づいた。私自身大勢の前で泣くなんて恥ずかしくて仕方ないが、だが、もっと驚くことがあった。


「もうどうでもいいじゃない。私はノットの娘なのよ!?」


そう叫び返すマリアの頰や瞳は、溢れんばかりの涙で満たされていたのだ。

何故彼女がなく理由があると言うんだ。

死にかけているのはこっちなのに、彼女が弱気になる理由が……私は知りたくて仕方なくなった。


「なんで私を狙うの!? 私がマリアに、何をしたっていうの!?」


いつの間にか、私の涙も激しくなっていた。

そんな様子を察しなくても見ればわかるが、オーディエンスも静まり返っている。

少女が被弾し、その傷が子供の喧嘩と言うには大きすぎるものだと分かった奴から順に、口を閉じていったのではないか。

この静寂を、私とマリアの叫びが切り裂いていく。


「最初は錬金術師が嫌いだったから、ただ嫌がらせしたかっただけ! アンタじゃなくても良かったのよ、ただ、ただ段々と最強の錬金術師なんてキラキラした言い方をするのが許せなくなって……!」


「それの何がいけないのよ、私の夢よ!?」


「それが嫌なのよ!! 私の、私の」


激昂した調子で言葉を紡ごうとするマリアだが、そこで言葉を噤んでしまう。


「アンタが何よ」


「私の、“本当の”パパとママは……そう言って私を捨てたんだから!!」


そうして繋がれた言葉は、隔たりを設けていたような今までのマリアの言葉とは全く違った。

ここからは叫びではなく、落ち着いた声での語りとなった。


まず、マリアの両親は今でこそアイルズ=アイリーンの市長夫妻だが、元々は違ったということ。

本当は錬金術師を生業とする両親が生みの親だったということ。

しかし、両親は経営不振かそういう性分か、幼かったマリアには理解できない何かを理由にマリアを捨てることにしたということ。


マリアは、ひとり馬車の中でで身動きも取れず、ただただ離れていく両親の背中を眺めることしかできなかった過去の記憶を、今でも捨てられないと語る。


それはつまり、マリアとは市長の家の養子であり、実は孤児である真実も明かされたことになる。


「もしかして、今日の他の子達って」


すっかり影響され、か細くなってしまった声の私が尋ねる。


「バレたのよ、アンタ達に執着してた隙に、誰かが見つけちゃったのよ」


マリアが大事に隠していた、昔の両親の形見。それが見つかったのだ。


「私、もう魔力もプライドもズタボロで、これ以上何ができるの?」


その一言は、完全に弱音だった。


マリアからそんな一言が放たれるだなんて思ってもいなかった私は、マリアの目を再び正確に捉える。


話している内に、心も魔力も落ち着いたのか目が正常に戻ろうとしている様子が分かる。


そして見えたのが、私と同じ赤眼だった。

これはただの俗説だが、その色の瞳は錬金術師の血を多く引くと言われている。

結局、マリアには火術の才能があったみたいだが。


「マリア、私は……」


言い淀んでいた次の瞬間、マリアを見つめる私の視界に誰かが映り込んできたかと思うと、それは息をする間も与えずに、中庭へ盛大な打撲音が響かせた。


異世界人(仮)がマリアをぶん殴っていたのだ。


「え……?」


少女が立ち上がったのも察知できなかったし、なんなら火傷はどうしたというのだ。


「これで勝ち、ですか……」


この一言によって、彼女達の緊張の糸は呆気なく切られたらしい。二人の少女はもつれるように倒れ、うちひとりは私の疑問に答えるが如く、倒れた後も胸を抱えてしまっていた。


二人の元へ歩いて寄っていくが、魔力と精神の疲弊は私も大概ではなかったようで、結局同様の形で地面へと転がってしまった。


燃え切った芝生に体を沈めれば、二人の息も間近で聞こえるようになる。

どちらも細い息で、今にも途切れてしまいそうで目も当てられない。


「こんな有様だと、引き分けね」


この言葉に答える声はない。

どちらのものかも分からない、若干の震動だけが答えてくれている。そんな状況が、私の言葉を裏付けてくれているだろう。


やっと息を整えたのか、マリアが細々と呟く。


「何を……良い話にしようとしてんのよ………」


それはこっちのセリフである。散々マリア含む女子に嫌がらせを受けてきた手前、結局マリアの一方的なストレス発散でしかなかったこの決闘なんかで、全て丸く収まるとでも思っているのか。


異世界人(仮)もそれには思うところがあるのか、声は出せないが私を揺さぶることで答えてくれているらしい。


「いや、私達の勝ちね。二人がかりで戦ってギリギリで引き分けなんて、酷く情けないでしょ?」


だが、それを本気で語るほど野暮なことはしたくない。そう思えるほどには丸く収まってしまったのだろう。


「それも……そうかしら」


マリアはマリアで、そんな私の冗談にも対応しきれないほど疲れているらしい。

そして異世界人(仮)が私を揺さぶるのも止まらない。


「結局、名前を聞いてなかったわね」


マリアが異世界人(仮)に尋ねる形だが、相手からの返事は細い息でしかない。


「コイツは名前が無いのよ」


「なにそれ、異世界人か何か?」


これが図星なのだから、笑って誤魔化すしかなかった。

そうこうしていると、異世界人(仮)の声が聞こえてくる。


「私……生きてますか……?」


「不思議に思うかもしれないけど、生きてるわ」


それにマリアが答える。


その間も、異世界人(仮)は私を揺さぶりながら何かを伝えようとしている。


「うっ、胸が痛いです」


まるで恋に落ちた少女みたいなことを言うが、実際は恋の胸焼けなんかよりも更に酷い本物の火傷である。


「はやく医務室に連れて行こう。マリアは来る?」


「私は別に。もう少し寝てれば魔力は回復するし、殴られた頬だってなんてことないわ」


痩せ我慢にも聞こえる言葉に追及しようとすれば、ふと倦怠感が心配に勝り声がどもってしまう。


まあ三人で立ち上がった時に落ち着いて考えればいいんだ。


それはそうと、異世界人(仮)の揺さぶりは先程よりも更に激しくなっているのだが、一体全体何を伝えようとしているのだ?


私は青空しか見えていないから、彼女が実際どうやって私を揺さぶっているのか分からないのだが。


「ねえ、さっきから何を伝えようとしてるの?」


「え? 私に言ってる?」


マリアがそれに答えてしまうが、直ちに訂正する。しかし


「私、何もしてませんよ……?」


苦しそうに少女は語る。


ん? じゃあこの揺れはなんだ?


とりあえずいつもの冗談かと口を開こうとした刹那だった。


私達を、いや中庭全体が激しい揺れに襲われる。


「な、なに!?」


力無く倒れるしかないマリアは、突然の事態に恐怖が隠せないでいた。

それは私も同じである。


しかし隣で寝てるもう一人の少女は、更に焦っている様子だった。


「逃げましょうみなさん!!」


時々普段の口調も砕けてしまいながら、とにかく逃げようと訴える彼女だが、その前に一番動けないのは自分自身だと自覚してほしい。


私達三人は込められない力を振り絞りながら、なんとか頑張った結果、ジタバタすることには成功した。


傍目から見ればきっとシュールであることに変わりはないだろう。そう思った私は、半ば諦めるように空を見た。


「もうどうなって——」


その時、私の視界に何かが映る。それは城壁の上から飛んできて、今、中庭の壁へ乱暴に衝突しながら、同じ芝生の上に不時着する。


中庭に土埃が舞う。その中から立ち上がる人影。


それは人だったのだ。その人は盛大に芝生は墜落したものの、一瞬で体勢を整えたと思えば、どこ吹く風で自身が落ちてきた方を見る。


その格好は決して高級とは言えない。墜落の衝撃か、元からなのか汚れだって目立っている。

しかし、仮に傭兵だとしたならば十分な服装をしていると言える。あの目付きはまるで、傭兵の中でもかなり飢えてる部類の奴だ。


何より、その手に握られている見たこともない道具に驚きを隠せない。


いや、見たことないと言えば嘘になる。


「あれって……」


私やマリア、異世界人(仮)は支え合いながら立ち上がる。そして視線も、前方の“謎の女性”に釘付けだ。


「クソッ……ほんま湿気のせいで調子出んなぁ!」


突然、空に向かってそう叫んだ後、彼女はゆっくりとこちらに振り向き、睨んできた。


「「な、なんでしょう!?」」


私やマリアは動揺したが、もう一人はそうではなかったようだ。


「あなたは、誰ですか!」


そんな少女を見てなのか、女性の表情は余計に際どくなっていく。

マリアが少女の口を塞ぎ、言い逃れする子供みたいに慌てて取り繕い始めるが、女性はそれに対して怪しげに笑い返す。


「今からめっちゃ荒れると思うから、気ぃ付けや」


そうして再び空を見上げようとした手前、こちらに振り返る。


「あ、ウチの名前はサンフラワー……知らんかったら寂しいんやけど、一応、異世界人やで」


私が一度だけ錬金術師の雑誌で見たことがあるソレを構え、先端を空に向ける。


「銃だ」


異世界人がもたらした新技術である、銃という武器。彼女が扱っている銃は、長く太い筒のような形状をしている。


引き金を引けば、それだけで簡単に人を殺せる兵器なのだとか。


銃口を空に向けたまま微動だにしないサンフラワー。

丁度太陽が通過しようとしている中庭の空を、一切の瞬き無しに睨み上げる彼女。


あれが異世界人、“魔女殺し”の一人。


「まるでハンターみたいな瞳ね」


マリアがそう呟いた瞬間、私達全員は巨大な影に覆われる。


その影は人ではないが、生物だ。

そして一対の翼を持ち、逆立った鱗、鋭い爪、巨大な肉体が影として分かる。


ドラゴンだ。


「っしゃぁ! かかってこい!」


気付けばオーディエンスの消えた中庭が、いつの間にやら狩り場となってしまったのだ。


どちらが狩られるのかは、誰も分からない。


それと、異世界人って誰もがあんな感じなのか? 隣の少女も、そんな気質があるのだろうか。

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