第10話

俺はリックに電話をかける。


「マルクか。どうだ?」


「ああ、ウルフマンは日本の群れのリーダー争いだったが解決したよ」


「そうか、それは良かった。ジャックの所にも連絡が来たみたいだったからな。心配はしてなかったよ。ジャックが世話になったって言っていたぞ。お前はそっちでも他の種族を掌握するんだなあ。全くお前の手の付いていない国を探す方が大変だ」


俺はソファーに寄りかかって話す。リックはくつくつと喉を鳴らして笑う。


「何が可笑しいんだ?」


「いや。その感じだと上手くいったんだなあと思っただけだよ。良かった。いいもんだろう?」


「敵わないなあ。そうだ、俺がヴァンパイアだと言っても受け入れてくれたよ。リックお前の人間愛が解ったよ」


「だろう? 後は見送る事が出来る準備を、これからお互いゆっくりして行けば良い。良い想い出を作っていけば最後はお互い笑っていられるさ」


「そうだな。これから沢山二人で思い出を作って行くよ。そういえばこの日本で俺の家系の眷属がいたよ。日本人だったがな」


「ほう! それは凄い偶然だな。お前の所は率先して眷属を増やさないからな」


「眷属でも不死ではないからな、ただ寿命が長いというだけだ。いずれ別れは来る。それを俺の所はきっと悲しいと思ったのだろう」


その日は長くリックと話した。有紀の話もした。そして夜は更けていき、インターフォンが鳴った。

「彼女が来た。リックまたな」


「楽しく過ごせよ。愛は不滅だ」


「そうだな」


電話を切ってインターホンに出る。こっちのカメラに向かって手を振っている。玄関から有紀が部屋に入って来る。俺は有紀を抱きしめ口づけを交わす。有紀は


「今日は早く帰って来れたわ。うちのナース達が鋭くて、絶対男が出来たでしょうって詰め寄られたわ」


「何処もナースは優秀なんだなあ」


「女の勘も鋭いのよ。舐めたらダメよ」


そう言って相変わらずその笑顔で俺を見つめる。俺はこれからこの笑顔を守って行きたい、そして傍に居たいし傍にいて欲しいと思う。キッチンに立って食事の用意をするその後ろ姿が愛しい。こんな風に人間を思う事などあり得ないと思っていたが、今のこの感情は何ていうものなのだろう。温かい物が心を満たしていく。


食事も終え風呂も入って互いにソファーに座ってテレビを見て寛いだ。


「有紀‥‥‥」


「何?」


「俺は今まで人間に好意を抱いた事は無かったんだ」


「同じヴァンパイア同士はあったの?」 


「まあね。でもこうやってずっと傍に居たいとか、いて欲しいとか思った事が無くて、何て言っていいのか解らないが、心が落ち着く温かい何かに包まれているような不思議なこの感じを俺は味わった事がないんだ。教えて欲しいこの感じはなんて言ったものなんだ?」


「マルク‥‥‥それはね。幸福っていうものよ。幸せな気持ちってやつよ」


「‥‥‥幸せ‥‥‥」


「そう。私も同じよ、こうやって傍にいるだけでそれだけで心は温かくなっていく。これが幸せっていうものなの」


そうか、これが幸福。幸せというモノなのか。うん。悪くない、いいものだ。リックに感謝だな。日本行きを勧めてくれたのはリックだからな、これからも教えてもらう事になるだろう。きっと俺は日本に留まるだろう‥‥‥そして‥‥‥。


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